アラブ首長国連邦(UAE)の水・電力公社EWEC(Emirates Water and Electricity Company)は8月14日、アブダビのアル・ノウフ複合施設に建設予定の新しい火力発電所「アル・ノウフIPP(独立発電事業)」について、開発事業者の入札募集を開始した。発電規模は最大3,300メガワットで、完成後はUAE最大のガス火力発電所となる。特徴は、将来的に二酸化炭素回収・貯留(CCS)を追加できる設計になっている点だ。商業運転は2029年7〜9月期に始まる予定で、入札の締め切りは2025年末とされている。
この発電所は、複合ガスタービン(CCGT)方式を採用し、海水冷却システムや海水を淡水に変える逆浸透(RO)設備も導入される。発電した電力はEWECが長期契約で全量を購入し、事業者は発電所運営会社の最大40%を保有する。残りはアブダビ政府が出資する仕組みだ。
EWECのアフメド・アリ・アルシャムシ最高経営責任者(CEO)は「アル・ノウフ発電所は、効率的で柔軟性が高く、脱炭素化した電力システムをつくるうえで重要だ」と強調し、「再生可能エネルギーが増えるなか、ガス火力は安定供給を支える役割を担う」と述べた。
今回の発電所は建設段階ではCCSを備えないが、将来の追加設置を見込んだ設計となっている。国際的には、ガス火力とCCSを組み合わせることで排出CO2を90%以上削減できるとされるが、大規模商業運転での実績はまだ少ない。
UAEでは2023年時点で電力の72%を化石燃料が占め、残り28%が原子力や再生可能エネルギーによる。政府は「2050年ネットゼロ戦略」に基づき、2035年までに温室効果ガスを47%削減し、2031年には電源構成の約半分を再生可能エネルギーと原子力に転換する目標を掲げている。
中東では炭素回収、水素、アンモニアへの投資が拡大しており、UAEはサウジアラビアなどと並び、約31億ドル(約4,500億円)規模の市場をけん引している。アル・ノウフ計画は、アブダビを電力と水の供給拠点に育成する「ハブ構想」の一部であり、現地人材の登用(エミラティゼーション)を通じて雇用創出も期待されている。
入札結果が出た後は、CCSをいつ導入するか、そして費用を誰が負担するかが次の注目点となる。