ブラジルを拠点とする炭素除去(CDR)開発企業のテラドット(Terradot)は2026年2月6日、米国を拠点とする強化風化(ERW)企業のアイオン(Eion)の資産買収に合意したと発表した。
この統合により、両社が保有する合計40万トン超の炭素除去契約を統合した、世界最大級のERWプラットフォームが誕生する。本買収は、初期の試験段階から工業規模での大規模な炭素除去のデリバリーへと移行する、ERW市場の新たな局面を象徴するものとなる。
今回の買収には、アイオンが保有する知的財産、プロジェクト拠点、運営能力、および専門知識のすべてが含まれる。特に、アイオンがフロンティア(Frontier)やマイクロソフト(Microsoft)と締結していた10万トン以上のCDR契約もテラドットに引き継がれる。これにより、テラドットがグーグル(Google)などと締結していた既存の契約と合わせ、受注残高は市場最大規模の40万トン以上に達する。
経営体制も強化され、アイオンの最高経営責任者(CEO)であるアナ・パブロビッチ氏がチームに加わるほか、最高財務責任者(CFO)にはグーグルなどの経歴を持つロブ・パーカー氏が就任する。また、最高プロジェクト開発責任者(CPDO)には、エネルギー大手シェブロン(Chevron)やCDR企業のヘアルーム(Heirloom)で30年以上のインフラ経験を持つジム・リチャードソン氏を招聘した。
テラドットはこれまで、ブラジルでの玄武岩を用いたERWプロジェクトを主導してきた。一方のアイオンは、米国南東部を中心にカンラン石を用いたプロジェクトを展開しており、今回の統合によって異なる土壌、サプライチェーン、そして北半球と南半球の両方で通年稼働が可能な多角的なポートフォリオが構築される。
テラドットのジェームズ・カノフCEOは「ERWは永続的な炭素除去において極めて重要な手法になりつつあり、市場はパイロット版から大規模な工業プログラムへと移行している」と述べた。さらに、アイオンの現場実行力とテラドットの科学的知見を組み合わせることで、長期的な購入者に対し、より高いデリバリーの確実性と信頼を提供できると強調した。
技術面では、テラドットの厳格な測定・報告・検証(MRV)プラットフォームに、アイオンの展開データセットや特許ポートフォリオ、先行研究の結果が統合される。これにより、大規模な炭素除去実績を追跡するための、より強固な科学的基盤が構築される。
ERW市場では現在、10万トンを超える大規模なオフテイク契約が一般化しつつある。購入者や投資家は、単一のプロジェクトではなく、複数の地域で再現可能かつ高精度なMRVを備えたプラットフォームを求めており、今回のテラドットによるアイオンの吸収は、業界内での「勝者による集約(コンソリデーション)」が加速していることを示している。
テラドットは今後、ブラジルと米国の拠点を活用し、現地の農家や物流業者との連携を深めることで、農村地域に新たな経済活動をもたらすと同時に、高品質な炭素クレジットの供給能力を拡大していく方針だ。
今回の買収劇は、単なるスタートアップ同士の統合ではなく、ERW(強化風化)が「研究段階」から「産業段階」へ完全にシフトしたことを裏付けています。これまでERW界隈では、手法(玄武岩かカンラン石か)や測定方法の妥当性を巡る議論が中心でしたが、マイクロソフトやグーグルといった大口バイヤーが求めるのは、もはや「数万トン単位で確実にデリバリーできる供給体制」です。
日本の事業者にとっても、この動きは無視できません。
国内でもERWへの関心は高まっていますが、先行する海外勢が北半球と南半球をまたぐポートフォリオを構築し、MRVの標準化を独占しつつある現状は、参入障壁が急速に上がっていることを意味します。
今後は技術単体ではなく、テラドットのように「金融・科学・現場運営」を統合したプラットフォームとしての競争力が問われることになるでしょう。
