Technip Energies、タイ初のCCS詳細設計を受注 既存ガス田活用で年100万トン貯留へ

村山 大翔

村山 大翔

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フランスのエンジニアリング大手テクニップ・エナジーズ(Technip Energies)は2025年12月15日、タイ初となる炭素回収・貯留(CCS)プロジェクト「Arthit CCS」の詳細設計業務を受注したと発表した。

タイ国営石油探査生産会社(PTTEP)が主導するこのプロジェクトは、タイ湾にある既存の天然ガス田インフラを改造し、年間約100万トンのCO2を地下貯留することを目指している。東南アジアにおけるCCS社会実装の重要な先行事例となりそうだ。

Arthit CCSのこれまでの動きは以下の記事で解説している。

既存インフラ活用でコスト抑制と迅速化を図る

今回テクニップ・エナジーズが受注したのは、Arthitガス田におけるCO2処理ユニットおよび圧入システムの新設に加え、既存の中央処理プラットフォーム(Arthit Central Processing Platform)への改造工事(ブラウンフィールド・モディフィケーション)に係る詳細エンジニアリングだ。契約は、プロジェクトの実行主体であるThoresen Jutal Offshore Engineering Heavy Industriesを通じて締結された。

このプロジェクトの最大の特徴は、ゼロから設備を建設するのではなく、稼働中のガス田インフラを最大限活用する点にある。これにより、新規の洋上複合施設を建設する必要がなくなり、初期投資コストの抑制と工期の短縮が可能となる。運用開始後は段階的に処理能力を引き上げ、最終的には年間100万トンのCO2貯留能力に達する見込みだ。

タイの脱炭素戦略における「試金石」

Arthit CCSは、タイ政府が掲げる「国が決定する貢献(NDC)アクションプラン 2021-2030」において、温室効果ガス削減の重要な手段として位置づけられている。

PTTEPはこのプロジェクトを、タイ国内でのCCS技術の専門知識を蓄積し、エネルギーおよび産業セクター全体へ展開するための「国家パイロットプロジェクト」と定義している。同国は化石燃料依存度が高い産業構造を持つため、CCSによる排出削減はカーボンニュートラル達成への必須条件となっており、本件の成否は今後の政策推進に大きく影響する。

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基本設計からの継続性を確保

テクニップ・エナジーズは、2022年から2023年にかけて本プロジェクトのPre-FEED(基本設計前段階)およびFEED(基本設計)を実施済みである。今回、詳細設計まで一貫して受注したことで、設計思想の継続性が保たれ、プロジェクトの確実性が高まったと言える。

同社のガス・低炭素エネルギー担当シニアバイスプレジデント、マリオ・トマセリ氏は、「この受注はPTTEPとの長年の関係と、当社のエンジニアリングおよび炭素回収ソリューションにおける専門性を裏付けるものだ。タイの脱炭素化のランドマークとなる本プロジェクトに貢献できることを誇りに思う」と述べた。

なお、テクニップ・エナジーズは2024年通期で69億ユーロ(約1兆900億円)の売上高を計上しており、LNG(液化天然ガス)や水素、CO2管理分野で世界的な実績を持つ。本契約は同社の2025年第3四半期の受注残高に計上された。

アジアCCS市場の「現実解」

本ニュースは、東南アジアにおけるCCSが「構想」から「実装」のフェーズへ確実に移行していることを示している。特に注目すべきは、「既存ガス田の改造(Brownfield)」というアプローチだ。

日本企業も含め、アジアでのCCS展開においては「高コスト」が最大の障壁となっている。しかし、枯渇ガス田や稼働中資産を転用するArthitのモデルが成功すれば、コストを抑えた現実的な脱炭素ソリューションとして、近隣諸国や同様の資産を持つ日本企業(商社・石油開発)にとって強力な参照事例となるだろう。

CCS由来のカーボンクレジット創出や、二国間クレジット制度(JCM)への適用可能性も含め、タイの動向は日本のエネルギー戦略とも密接に関る。

参考:https://investors.technipenergies.com/news-releases/news-release-details/technip-energies-awarded-detailed-engineering-contract-thailands