スイス政府は10月29日、温室効果ガス(GHG)排出実質ゼロ(ネットゼロ)を2040年までに達成するため、国内外で生成される炭素除去(CDR)クレジットを購入する方針を示した。新提案は気候・イノベーション法(Klima- und Innovationsgesetz、KlG)およびそれを具体化する気候保護条例(KlV)の改正案として連邦内閣(連邦評議会)が承認し、2026年2月12日まで意見公募が実施される。
今回の提案により、連邦環境庁(FOEN)が政府を代表してCDRクレジットを購入する主体となり、取得した削減・除去証書(アテステーション)はスイスCO2法に基づき発行される。これらは、排出削減策で対応しきれない残余排出を補う目的で活用される。
政府はすでに民間部門と連携して厳格な削減策を推進しており、今回のCDRクレジット購入はこれを補完する形となる。除去対象には、公共交通利用や賃貸施設の使用、廃棄処理など、政府活動に伴うScope1,2,3の排出が含まれる。提案文書では「残留する直接・間接排出は、CO2を大気から除去し永続的に貯留する技術で吸収すべきだ」と明記されている。
国内で生成されたCDRクレジットについては、連邦環境庁(FOEN)と連邦エネルギー庁(SFOE)が共同で運営する補償事務局(Compensation Office)が認証を行い、証書として承認する。一方、国外のプロジェクトから購入する場合には、国際的に移転可能な削減成果(ITMO)が交付され、ボランタリーカーボンクレジット市場でも利用可能とされる。
スイスではすでに、化石燃料(ガソリン、ディーゼル、天然ガス、ケロシン)を取り扱う事業者に対して、自社の排出の一部を国内外のカーボンオフセット事業で補償する義務が課されている。今回の行政主導型CDR購入は、この制度を拡張する形で「公的部門の見本的役割」を果たすことを狙う。
2023年6月に国民投票で承認された気候・イノベーション法(KlG)は、スイスの2050年ネットゼロ目標を法的に位置づけた。今回の条例改正案では、連邦政府・州・国営企業(郵便公社、スイス連邦鉄道SBB、スイスコムなど)に対しては、2040年までに事実上のゼロ排出を達成することが求められる。
連邦評議会の広報責任者であるフランツィスカ・イングオルト氏は「行政自らがCDRを制度的に組み込み、持続可能なネットゼロ経済の基盤を築く」と述べた。
提案の最終確定は2026年春にも見込まれ、今後の欧州各国のCDR政策形成にも影響を与える可能性がある。
参考:https://www.news.admin.ch/de/newnsb/_zwcS5rUVYzwcLXNVrIKm