スーパークリティカル(Supercritical、本社ロンドン)は9月16日、業界報告書「Bottlenecks and Breakthroughs: Scaling Biochar on the Road to 2030(ボトルネックと突破口:2030年に向けたバイオ炭拡大)」を発表した。同報告書は、プロジェクト開発者や買い手、登録機関、格付機関、専門家らの意見を集約し、バイオ炭を炭素除去(CDR)の中核技術として拡大する際の課題と機会を整理している。
リポートによると、2025年上半期の炭素除去量のうち90%をバイオ炭が占める一方、市場の90%はわずか8社の買い手と13社の供給者に集中している。この過度な集中は「ビッグ・バイオチャー(Big Biochar)」を招き、大規模買い手の動向次第で市場が不安定化するリスクがあると警告している。
スーパークリティカルの共同創業者でCEOのミシェル・ユー氏は、「バイオ炭は炭素除去の“知られざる英雄”だ。土壌改善や廃棄物の価値化といった共益効果に加え、既に規模を伴って恒久的な除去を実現している」と強調した。その上で「しかし供給が多様化せず、新規参入者の資金調達が進まなければ、一握りのプレイヤーに支配された脆弱な市場が形成される恐れがある。持続的なエコシステムを築くには、買い手が今こそ行動を起こす必要がある」と訴えた。
報告書では、拡大の最大の障壁は科学的な実証ではなく資金調達だと指摘している。特に、銀行融資を引き出すための長期的かつ銀行が評価可能なオフテイク契約が不足しており、これがプロジェクトの停滞を招いている。価格の低下圧力や買い手優位の契約条件は、小規模・中規模の革新的プロジェクトを市場から排除し、結果的に供給の多様性を損なうリスクを孕む。
一方で、報告書は前向きな動きとして、下水汚泥や都市ごみなど新たなバイオマス供給源の利用、建設資材や道路舗装材への応用といった多様な用途開発、さらに衛星画像やIoTデータを活用した迅速かつ低コストのMRV(計測・報告・検証)技術の進展を挙げている。
スーパークリティカルは結論として、2030年のネットゼロ達成に向けて「買い手の行動が市場の成長を決定づける」と強調。特に、マイクロソフトのような大規模企業だけでなく、初めて炭素クレジットを調達する企業も含め、今すぐの購入行動が市場の健全性と価格安定性を左右すると訴えている。