スウェーデンの地域熱供給大手であるセーデルエナジー(Söderenergi)は、2020年から進めてきたバイオエネルギー炭素回収・貯留(BECCS)プロジェクトの凍結を発表した。カーボンクレジットのボランタリー市場における需要が予測を下回ったことや、政府による補助金枠組みが未成熟であることが主因である。自治体が所有する同社にとって、巨額の資本投入に伴う財務リスクが許容範囲を超えたと判断された。
セーデルエナジーの取締役会は、炭素除去(CDR)事業への移行を正当化するための条件が整っていないとの結論を下した。同プロジェクトが中断に至った背景には、大きく分けて2つの制約がある。
第一に、北欧のボランタリー炭素市場において、BECCS由来の高品質な除去系カーボンクレジットに対する需要が想定よりも緩慢であったことだ。これにより、長期的な収益の見通し(収益の可視性)が立たない状況に陥っている。第二に、早期のBECCS投資を支えるべき国家的な補助金制度が、建設や初期操業のリスクを十分に軽減できるレベルに達していない点が挙げられる。
同社は、スウェーデンのセーデルテリエ(Södertälje)、フッディンゲ(Huddinge)、ボートシルカ(Botkyrka)の3自治体によって共同所有されている。セーデルテリエのボエル・ゴドネル(Boel Godner)市議会議長兼同社取締役会長は、「不確実な時代において、自治体の財政を過度なリスクにさらすことはできない」と述べ、気候変動対策の野心は維持しつつも、短期的な財政の健全性を優先する姿勢を強調した。
セーデルエナジーは2020年以降、技術設計、物流計画、環境アセスメントなど、詳細な開発フェーズに向けた準備を進めてきた。同社のロバート・ティングバル(Robert Tingvall)CEOは、現時点ではプロジェクトを一時停止し、新たな契約締結は見送るものの、市場環境や規制状況が改善されれば再検討する余地があるとしている。
スウェーデンのバイオベースの地域熱供給システムは、生物起源の二酸化炭素(CO2)排出源が集中しており、技術的には大規模な炭素除去のプラットフォームとして非常に有望視されている。しかし、今回の決定は、政治的なネットゼロ目標の掲示と、初期の炭素除去事業者が直面する商業的な現実との間に大きな乖離があることを浮き彫りにした。
欧州の炭素除去(CDR)市場を牽引すると見られていた北欧ですら、ボランタリーカーボンクレジット市場の買い手不足と公的支援の遅れがプロジェクトを失速させている事実は重い。
日本企業にとっても、高品質なカーボンクレジットの調達には長期的なオフテイク契約(引き取り保証)が不可欠であり、供給側のリスクを理解した上での戦略的投資が求められるだろう。
参考:https://www.soderenergi.se/pressmeddelanden/soderenergi-pausar-projekt-for-koldioxidinfangning/
