世界最大のエネルギーサービス企業であるエスエルビー(SLB)は2026年1月29日、炭素回収・貯留(CCS)プロジェクトに関連して約2億1,000万ドル(約323億円)の巨額損失を計上したと発表した。
同社の第4四半期決算で明らかになったこの損失は、アーカー・カーボン・キャプチャー(Aker Carbon Capture)との合弁事業「SLBキャプチュリ(SLB Capturi)」におけるのれんの減損処理によるものである。大規模CCSプロジェクトの社会実装に向けた技術的複雑さとコスト管理の難しさが、財務上のリスクとして改めて浮き彫りとなった。
SLBキャプチュリは、SLBが80%、アーカー・カーボン・キャプチャーが20%の株式を保有するCCS専門の合弁会社である。同社は、セメント製造や廃棄物発電、ガス発電といった二酸化炭素(CO2)排出削減が困難な「ハード・トゥ・アベート(Hard-to-Abate)」セクター向けに回収ソリューションを提供している。SLBは今回の損失を招いた具体的なプロジェクト名を公表していないが、初期段階のCCS商用化に伴う「財務的エクスポージャー(価格変動リスク)」を強調する格好となった。
一方で、SLBキャプチュリは欧州市場を中心にプロジェクト・ポートフォリオを着実に拡大させている。
デンマークでは、エルステッド(Ørsted AS)のバイオエネルギー施設に5基のモジュール型回収ユニットを納入中で、年間最大50万トンのCO2除去を目指している。ノルウェーでは、ハイデルベルグ・マテリアルズ(Heidelberg Materials AG)のセメント工場に世界初のフルスケールCCS施設を完工した。この「ブレヴィク(Brevik)」プロジェクトでは、年間最大40万トンのCO2を回収し、同社のネットゼロ戦略の要となっている。
オランダにおいても、トゥエンセ(Twence BV)の廃棄物発電施設で年間約10万トンのCO2を回収するシステムを稼働させるなど、実績を積み上げている。しかし、欧州でCCSの導入は加速しているが、多くのプロジェクトが世界初の試みであり、技術的な複雑さとコスト超過のリスクが依然として高いのも事実だ。
SLBは今回の減損計上について決算報告書の中で「重要な損失」と記述したが、プロジェクト自体は拡大を続けている。この対照的な動きは、発表されるプロジェクト数は急増しているものの、長期的な商業的実行可能性やコスト管理における課題が依然として山積しているという、CCSセクターが抱える現実を反映している。
次回の焦点は、今回のような減損が業界全体の投資意欲にどう影響するか、そして各国の政策的支援がこれらの財務リスクをどこまで補完できるかに移ることとなる。
今回のSLBによる巨額減損は、CCSが「実証」から「商用」へと移行するフェーズで避けては通れない「産みの苦しみ」を象徴している。注目すべきは、SLBキャプチュリが2025年に日本のエンジニアリング大手、日揮ホールディングス(JGC Holdings Corporation)とアジア・中東市場での協業に向けた覚書(MOU)を締結している点だ。
日本企業にとって、このニュースは他山の石ではない。アジアでのCCS展開を狙う日揮グループにとって、パートナーであるSLBが直面した「技術の複雑さゆえのコスト管理不全」は、今後共同で受注するプロジェクトの採算性管理における重要な教訓となる。
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日本の投資家や事業者は、単なる「回収量」の目標だけでなく、初期型プロジェクト特有の予期せぬコスト増大リスクを、より厳格に評価すべき段階に入ったと言える。


