ベルギー拠点のDAC開発企業シロナ・テクノロジーズ(Sirona Technologies)は2026年5月、ノルウェー西岸ウイガルデン(Øygarden)にて欧州旗艦案件となるDACプロジェクト「Furu」を発表した。同社CEOソラルフ・グティエレス(Thoralf Gutierrez)が、ブリュッセルで開催されたCRCFデイズの壇上で公表した。
Furuの立地は、現時点のDAC事業において想定し得る最良条件の組み合わせと評価できる。
第一に、ノルウェー電力系統の電源構成は90%超が水力で、残部も風力等の再生可能エネルギーで構成される。世界でも最も低廉かつ低炭素な電力であり、エネルギー集約型のDAC運転にとって決定的に有利な条件である。
第二に、敷地は商業規模CCS拠点ノーザンライツ(Northern Lights)に直接隣接する。ノーザンライツは欧州初の商業規模オープンアクセス型CO2貯留施設であり、すでに圧入を開始している。回収から貯留までの輸送距離が事実上ゼロという立地は、世界的に見ても希少である。
第三に、共同開発者CCBエナジー(CCB Energy)が同地で1.4 km²の緑色産業ハブを開発中であり、共存プロジェクト間でのシナジー創出を明示的な狙いとしている。CCBはまた、小規模DAC量を集約してノーザンライツのパイプラインに送り込む共有インフラ「CarbonLink」も構築中であり、シロナ規模のDAC事業の商業化を可能にする要素技術となる。
Furuはフェーズ方式で段階的に拡張される。フェーズ1は即時展開可能な状態にあり、敷地・許認可・電力供給はすでに確保済みである。最初のコンテナ型DACモジュールを出荷し、稼働実績を構築することで次フェーズのプロジェクトファイナンスを呼び込む設計である。
捕捉容量は、CarbonLink稼働前は「捕捉・放出」運転で立ち上げ、2029年に1万トン/年で本格運転を開始、その後数年で10万トン/年超への到達を目指す。回収・貯留・電力・資金調達を同調的にスケールさせる設計思想であり、DAC事業特有の資本集約性と技術リスクを段階的に分解する構造といえる。
シロナはFuruをEUイノベーション基金(EU Innovation Fund)にも申請済みである。同基金は商業規模気候技術の加速を目的とする欧州委員会の旗艦資金スキームであり、採択はプロジェクトファイナンスの呼び水となる。
Furuの発表は、欧州委員会がCRCFのもとで永続的除去に関する最初の認証方法論セットを採択した直後というタイミングで行われた。DACCSはEU ETSへの編入が見込まれており、ボランタリー市場の数桁規模を上回ると予測されるコンプライアンス市場が、DAC事業の主要販路として開かれつつある。
ノルウェーは欧州経済領域(EEA)の構成国であり、Furuは将来EU ETSがDACCSに開放された際、コンプライアンス需要を直接供給可能な立地にある。同社によればFuruのカーボンクレジットは販売受付を開始しており、問い合わせ窓口も公表済みである。
ただし、CRCF方法論の運用開始、EU ETSへの正式編入時期、EU加盟国の受容度等、規制枠組みの最終形は依然として流動的である。立地・技術・パートナーシップが揃ったとしても、規制側の進度がプロジェクト経済性を最終的に決定する構造には変わりがない。
Furuは、DAC事業の商業化に必要な前提条件、低炭素・低廉電力、隣接する商業規模貯留拠点、産業集積、規制枠組みの整備が同一立地で揃った最初の旗艦案件として位置づけられる。立地条件論として見れば、世界的に再現困難な組み合わせであり、欧州DAC事業の標準形を提示するモデル案件となる可能性がある。
もっとも、フェーズ1の捕捉容量は依然パイロット域にあり、2029年の本格運転開始、10万トン/年超への到達には複数フェーズにわたる資金調達の連鎖的成功が必要となる。立地優位性が直ちに商業規模の実現を保証するわけではない点には留保が必要である。
DAC事業の経済性は、技術コスト低減と並行して、規制側のコンプライアンス需要創出が鍵となる。Furuの成否は、シロナ単体の技術・実行力よりも、CRCFとEU ETSの運用設計が今後どこまで実需を生み出せるかに左右される。
参考:https://www.sirona.tech/updates/sirona-technologies-unveils-project-furu