「高保全ブルーカーボン」の供給をアジアで拡大 WWFとシンガポール政府が新プログラム始動

村山 大翔

村山 大翔

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2026年1月15日、世界自然保護基金シンガポール(WWF-Singapore)とシンガポール経済開発庁(EDB)は、アジア全域で高品質な自然由来の解決策(NbS)を拡大するための「ブルーカーボン支援プログラム(BCSP)」を開始した。

この3カ年計画は、陸上の森林よりも最大4倍の炭素貯蔵能力を持つとされるマングローブ、泥炭地、海草藻場の保全と修復を目的としている

同日、シンガポールの宇宙技術産業局(OSTIn)も宇宙技術を活用した炭素測定技術への助成金交付を発表しており、シンガポール政府は最先端技術を背景に、同国を世界のカーボン市場における「高保全クレジット」の供給拠点として確立する構えだ。

今回のプログラムは、ボランタリーカーボンクレジット市場において現在わずか0.2%にとどまっているブルーカーボンクレジットの供給不足を解消することを目指している。

WWF-Singaporeは、技術スタートアップや研究機関と提携し、プロジェクトの実施において最大の障壁となっている測定・報告・検証(MRV)のデジタル化を推進する。具体的には、地理空間分析を用いた炭素蓄積量のモニタリングや、遠隔地における苗木の生存率向上、コミュニティの関与を自動化するデジタルツールの開発に焦点を当てる。

シンガポール政府は、この取り組みを自国の産業競争力強化に直結させている。

EDBは、シンガポールを拠点とする技術プロバイダーに対し、「能力転換パートナーシップ(PACT)」スキームを通じて資金支援を行う。また、宇宙技術産業局(OSTIn)が発表した「BIOMASS dMRV助成金」は、衛星データや人工知能(AI)を活用して、東南アジア特有の熱帯生態系における炭素吸収量を高精度に算出する手法の開発を後押しする。これにより、地上での人手による調査を大幅に削減し、カーボンクレジットの透明性と信頼性を担保する狙いがある。

WWF-Singaporeのカーボン・ファイナンス・マーケット・タスクフォースのグローバルリードであるルーバン・マノカラ氏は、高保全な自然由来の解決策には科学的な厳密さと透明な測定が不可欠であると指摘した。その上で、本プログラムを通じて技術提供者とプロジェクト開発者の架け橋となり、シンガポールをアジアにおける高精度ブルーカーボンのプラットフォームとして位置づけることが重要であると述べた。また、EDBのリム・ウェイレン副長官は、世界のNbSの25%が東南アジアに集中していることに触れ、同地域の脱炭素化を促進するためにシンガポールの研究開発能力を動員する決意を示した。

今後の展開として、BCSPは3年間にわたりプロジェクト開発者へのトレーニングや技術支援を継続し、開発された技術ソリューションを実際のアジア各国のプロジェクト現場で試験導入する予定である。

シンガポール政府は2050年までのネットゼロ達成に向け、高品質なカーボンオフセットの安定調達を目指しており、今回のイニシアチブはその戦略の核心を担うものとなる。

今回のシンガポールの動きは、単なる環境保護活動ではなく、「カーボンクレジットの質」を技術で定義し、市場の主導権を握ろうとする国家戦略そのものである。

現在、カーボンクレジット市場は信頼性の欠如が課題となっているが、シンガポールは宇宙技術やデジタルMRVという客観的な「物差し」を政府主導で開発することで、自国を経由するクレジットに「高信頼性」というブランドを付与しようとしている。

特に注目すべきは、東南アジアに豊富に存在するマングローブなどのブルーカーボンに照準を絞った点だ。

これは、日本企業にとっても、将来的にアジア圏でのオフセット調達や技術供与の面で極めて重要なプラットフォームになるだろう。

今後は、開発されたdMRVの手法が、ベラ(Verra)やゴールドスタンダード(Gold Standard)といった国際的な認証機関にどの程度のスピードで承認・採用されていくかが、このプログラムの真の成功を左右する鍵となる。

参考:https://www.wwf.sg/singapore-accelerates-innovation-in-nature-based-carbon-solutions-through-two-new-initiatives/