シンガポールとタイは11月18日、パリ協定6条に整合した二国間実施協定の下で利用可能なカーボンクレジット創出手法の「適格リスト」を初めて公開した。両国は2026年1〜3月にプロジェクト公募を開始する方針で、アジアでの高品質カーボンクレジット供給基盤づくりが一段加速する。
今回の発表は、ブラジル・ベレンで開催中の国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第30回締約国会議(COP30)会場内で行われた。シンガポールの環境・持続可能性相で通商関係担当相のグレース・フー氏と、タイ首相府政治担当副事務総長パトラナント・トンプラパン氏が共同声明を発表した。
適格リストは、シンガポール‐タイ実施協定の下で事前承認されるカーボンクレジット創出プログラムと手法を明確化したもので、森林・土地利用、再生可能エネルギー、メタン回収など幅広い分野を包含する。プロジェクト開発者にとって、タイで6条対応クレジットを開発する際の不確実性が大きく低減される。
両国は2026年Q1にプロジェクト公募を開始し、カーボンクレジット認可プロセスや申請要件の詳細を後日公表する予定である。
フー環境相、「6条クレジットと国際協力が脱炭素の鍵」と強調 シンガポール国別声明
17日に発表されたシンガポールの国別声明では、グレース・フー環境・持続可能性相が6条クレジットを中心とした国際協力の重要性を強調した。フー氏は、「気候変動は小国であるシンガポールにとり存在的な脅威であり、技術成熟度と国際協力が排出削減の前提である」と述べた。
声明では、2035年の国別目標(NDC)として国内排出量を4,500万〜5,000万トンに抑制し、2050年のネットゼロへ直線的に向かう方針を再確認した。
また、同国が進める低炭素電力の域内調達(マレーシア・サラワクからの水力発電1GW供給承認など)、海運と航空での低炭素燃料導入、炭素回収・貯留(CCS)におけるマレーシア・インドネシアとの覚書(MoU)締結など、エネルギー転換策も列挙した。
6条クレジットの供給拡大へ シンガポール、協定国は10カ国に
シンガポールは今年、ブータン、ペルー、チリ、ルワンダ、パラグアイ、タイ、ベトナム、モンゴルと新たに実施協定を締結し、合計10カ国に達した。最新の公募はシンガポール‐ペルー協定で実施されている。
同国は9月、ガーナ、パラグアイ、ペルーの4プロジェクトから計217万5,000トンの6条対応ネイチャーベースドクレジットを約7,600万シンガポールドル(約83億円)で購入すると発表した。これらは森林減少抑制、土壌炭素の増加、荒廃牧草地の再植林によるCO2除去を対象としている。
加えて、国際炭素市場の信頼度向上に向け、任意市場(VCM)における高品位クレジット利用を促す国際連合「Coalition to Grow Carbon Markets」に英国、フランス、ペルー、シンガポールなど10カ国が参加し、企業向けの共通原則を公表した。
需要面と供給面の「両輪」整備へ エネルギー転換クレジットも推進
需要拡大策として、石炭火力の早期リタイアに伴う削減量をクレジット化する「エネルギー転換クレジット(Transition Credits)」の実用化を進めている。シンガポールは国際連合型の協議体「TRACTION」をCOP28で立ち上げ、COP30で最終報告書を公表した。報告書は、クレジットの会計処理、追加性証明、資金循環の仕組みなど制度整備の課題と解決策を提示した。
一方、供給側では、シンガポールに150社以上のカーボンサービス企業が集積し、任意市場のメタ基準を提供するICVCMがアジア太平洋ハブを同国に設置した。さらに、金融監督庁MASは金融機関のクレジット取引支援のため、1,500万シンガポールドル(約16億円)の助成金制度を開始した。
6条協力のアジア拡大の起点に 今後は公募開始が焦点
今回の適格リスト公開により、東南アジアにおける6条クレジット創出の制度基盤が一段と強化される。2026年Q1に予定されるプロジェクト公募で、具体的な案件形成がどこまで進むかが次の焦点となる。
参考:https://www.nccs.gov.sg/national-statement-of-singapore-at-unfccc-cop30-by-min-grace-fu/
