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米国証券取引委員会、バイデン政権下の気候開示規則を全面撤回へ 連邦統一基準の喪失で規制分断が深刻化

2026.06.01 読了 約4分
米国証券取引委員会、バイデン政権下の気候開示規則を全面撤回へ 連邦統一基準の喪失で規制分断が深刻化
出典:イメージ

SEC(米国証券取引委員会)は2026年5月29日、バイデン前政権下の2024年に採択された上場企業向けの気候関連開示規則を全面的に撤回する提案を正式に公表した。

同規則は採択直後からの法的係争により一度も発効しておらず、今回の提案は連邦官報での公示後60日間の意見公募を経て最終決定される。

撤回提案の論拠

ポール・アトキンス(Paul Atkins)委員長率いる現SECは、開示義務をマテリアリティに基づく投資家保護の範囲に限定すべきとの立場を明確にした。

提案理由として、2024年規則がSECの法定権限を逸脱する過剰規制であること、上場企業と株主に正当化されない多額のコンプライアンス負担を課すこと、開示の便益がコストに見合わないことを挙げている。アトキンス委員長は、環境規制はEPA(米環境保護庁)が担うべきであり、SECは本来の所管に徹するべきだと述べた。

撤回対象の規則は、GHG排出量、気候関連リスクの管理体制、異常気象が財務諸表に及ぼす影響について、ほぼすべての上場企業に詳細な開示を求める内容だった。

発効に至らなかった規則の経緯

2024年規則は党派対立の票決で採択され、当初から係争の的となってきた。

SECは2024年3月に規則を最終化したものの、米国商工会議所をはじめとする業界団体や複数の共和党系州が直ちに提訴。2024年4月4日に執行を停止した。政権交代後の2025年3月27日にはSEC自身が法廷での規則防御を放棄し、2025年9月12日に第8巡回区控訴裁判所が、SECが規則を再検討するまで係争を保留する命令を出していた。

今回の全面撤回提案は、この宙吊り状態に終止符を打つ動きと位置づけられる。

EUとカリフォルニア州は方針を維持

SECが規則を撤回しても、多くの大企業が他の制度の下で開示義務を負う構図は変わらない。

EUのCSRDは、域外企業を含む広範な対象に対し、気候リスク、排出量、移行計画の開示を求める。同制度は、企業が気候問題から受ける影響と、企業活動が環境に及ぼす影響の双方を開示するダブルマテリアリティを採用しており、SECが志向した財務マテリアリティ一元のアプローチとは性格を異にする。カリフォルニア州も大企業に対し、サプライチェーン全体の排出量と気候関連財務リスクの報告を求める規則を導入しており、州経済の規模ゆえにその影響は州外の企業にも及ぶ。

排出量開示はカーボンクレジット活用を含む企業の気候戦略の前提データであり、その制度的枠組みの所在は市場参加者にとっても無視できない論点となる。

一方で、環境擁護団体や機関投資家は、枠組みの解体により株主が多額の気候関連債務を把握できなくなると警告し、長期的な企業リスク評価には標準化されたデータが不可欠だと反論している。

編集部の視点

本件は、米国連邦レベルでの気候開示義務化が事実上頓挫する転換点として位置づけられる。

2024年規則は一度も発効しないまま撤回に向かい、米国は上場企業の気候情報開示について連邦統一基準を欠く状態が固定化する。本質は一規則の撤回にとどまらず、開示規制の主導権が連邦からEUおよび州レベルへ移行し、グローバルな基準の分断が常態化する点にある。

ただし、撤回は実務上の開示義務の消滅を意味しない。EU CSRDやカリフォルニア州規則は域外の多国籍企業にも適用が及び、相当数の企業は連邦規則の有無にかかわらず開示体制の維持を迫られる。

むしろ多国籍企業の負担は、単一の連邦基準への対応から、相互に整合しない複数の制度を束ねるコンプライアンスへと質的に変化する。今後の実務対応は、この規制ダイバージェンスをいかに管理するかが左右する。

参考:https://www.sec.gov/newsroom/press-releases/2026-49-sec-proposes-rescission-climate-related-disclosure-rules

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カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。