フィリピン環境天然資源省(DENR)は、国内1,580万ヘクタールの森林管理を抜本的に効率化する新政策「持続可能な森林土地管理協定(SFLMA)」を正式に導入した。
この制度は、これまで断片化されていた7つの森林利用権を一本化することで、民間投資を呼び込み、2038年までに350万トン規模の二酸化炭素(CO2)吸収を目指すものである。同国におけるカーボンクレジットおよび炭素除去(CDR)プロジェクトの法的基盤を強化する重要な一歩となる。
煩雑な権利を一本化 最長50年の長期事業が可能に
DENR行政命令2025-22号に基づき策定されたSFLMAは、フィリピンの森林政策における「重大な転換点」と位置付けられている。従来、同国の森林利用権は複雑に分断されていたが、これを単一の契約に統合。適格と判断されたパートナー企業は、25年間の管理権を得ることができ、さらに25年間の更新(計50年間)が可能となる。
この新制度の特徴は、同一エリア内での「多目的利用」を認めている点だ。
具体的には、アグロフォレストリー(森林農法)、エコツーリズム、持続可能な木材生産、そして生物多様性保全を統合的に実施できる。また、植林地で生産された産品は森林利用料が免除されるほか、協定期間中は将来的な伐採禁止措置の対象外となるなどのインセンティブも付与される。
炭素吸収と経済性の両立 デジタル監視も導入
今回の政策刷新は、生態系の回復と経済成長の二兎を追う戦略だ。DENRはすでに「潜在的投資エリア(PIA)」として、生産的利用が可能な118万ヘクタールの土地を特定している。
- 炭素除去目標
- 2028年までに500万本の在来種を植樹する「Forest for Life(フォレスト・フォー・ライフ)」イニシアチブを支援し、2038年までに350万トンの炭素固定化を標榜する。
- 雇用創出
地方農村部を中心に、数千人規模の「グリーンジョブ」創出を見込む。 - 厳格な監視
衛星画像を週単位で分析し、土地利用状況を監視するデジタルプラットフォームを導入。カーボンクレジットの透明性を担保する。
業界の反応と懸念 「グリーンウォッシュ」への厳しい目
民間セクターからは歓迎の声が上がっている。アボイティス財団(Aboitiz Foundation)が主導する「CarbonPH連合(CarbonPH Coalition)」は、煩雑な手続きの削減が、自然由来の解決策(NbS)への投資を加速させると評価した。
一方で、環境団体の「カリカサンPNE(Kalikasan PNE)」などは、公有地の私有化や、実態の伴わない「グリーンウォッシュ」につながる懸念を表明している。特に、投資エリアが先住民族の先祖伝来の土地と重なる場合、地域コミュニティの排斥や紛争が生じるリスクも指摘されており、今後の実施過程におけるガバナンスが問われることになる。
フィリピンによる森林管理の一本化は、アジア圏におけるJCM(二国間クレジット制度)やボランタリーカーボンクレジット市場(VCM)への高品質なクレジット供給を促す大きな呼び水となるだろう。
日本企業にとっては、長期の土地利用権が保証されたことで、大規模なNBSプロジェクトへの参画ハードルが下がったと言える。ただし、現地の先住民権利への配慮が欠ければ、サステナビリティ投資の観点から深刻なレピュテーションリスクを招くため、デューデリジェンスの徹底が成功の鍵を握る。
