フィリピン環境天然資源省(DENR)は2月9日、2026年から2030年までの5年間を対象とした「自主的森林炭素市場(VFCM)への準備工程表」を正式に採択した。
本計画は国連開発計画(UNDP)の技術支援を受けて策定されたもので、同国を高品質な森林炭素投資の目的地として確立することを目指している。
2030年までに温室効果ガス排出量を75%削減するという国家決定貢献(NDC)の達成に向け、森林による炭素吸収源の経済的価値を最大化する方針だ。
環境天然資源省のラファエル・ロティーリャ長官が署名した行政命令(DAO)により、この戦略的枠組みの運用が正式に決定した。本工程表の実施により、5年間で最大3,749億8,000万ペソ(約9,700億円)の資金調達が見込まれている。フィリピン政府は、国際基準を満たす「高インテグリティ(高い誠実性)」な投資家を誘致することで、信頼性の高いクレジット創出市場を構築する考えだ。
今回の工程表では、2030年までの優先事項として4つの柱が掲げられた。第一に森林資産の管理政策を調和させ、炭素権と取引に関する明確なガイドラインを整備する。第二に国家森林モニタリングシステムと森林炭素クレジットデータベースを構築し、データの透明性を確保して二重計上などのリスクを排除する。
組織体制の整備については、陸域の森林を森林管理局(FMB)が担当し、マングローブや海草藻場などの「ブルーカーボン」生態系を生物多様性管理局(BMB)が所管することで、管轄権の重複を解消する。また、財務省との協議を通じて、炭素収入を森林管理に直接再投資するための信託基金などの持続可能な金融メカニズムの構築も検討していく。
環境天然資源省のラファエル・ロティーリャ長官は、本工程表について「フィリピンの炭素吸収源が持つ経済的潜在力を解き放つための国家的な指針になる」と述べた。同氏はさらに、森林保護と修復の取り組みが地域の先住民やコミュニティの持続可能な生計向上に直結することを強調した。
本工程表は今後、民間セクターや市民団体との連携を通じて、2026年の本格始動に向けて詳細な運用規定の策定が進められる。フィリピン政府は、次期国会での関連法案の審議や、投資促進に向けた優遇措置の検討を加速させる見通しだ。
今回のフィリピンの動向は、単なる「環境保護」の宣言ではなく、アジアにおけるカーボンクレジット供給国としての「市場支配権」を確立しようとする明確な経済戦略である。特筆すべきは、陸域の森林だけでなく、マングローブ等のブルーカーボンを明確に戦略へ組み込み、管理局の管轄を整理した点にある。
これまでは「炭素権(Carbon Rights)」の所在が曖昧であることが、東南アジアにおけるカーボンプロジェクトの最大の投資リスクであった。
今回の工程表がこの法的問題をクリアにし、さらに「3,750億ペソ」という具体的な市場規模を提示したことは、日本の商社やデベロッパーにとっても強力な呼び水となるだろう。
今後は、実際に発行されるクレジットが国際的な認証基準とどのように整合性を取るのか、その具体的プロセスが次の焦点となる。
