「AI土壌マッピング」をVCSで正式運用 Verra承認の新ツール カーボンクレジット創出の測定コストを大幅削減 

村山 大翔

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米コロラド州ボルダーのペレニアル(Perennial)は8月26日、Verraに承認された初のAI土壌炭素定量ツール「VT0014」を公開した。同ツールはVerraの検証済みカーボン・スタンダード(Verified Carbon Standard, VCS)プログラムの農地管理(Agricultural Land Management, ALM)方法論でのデジタル土壌マッピング(DSM)を可能にし、土壌有機炭素(SOC)の定量を低コストで拡張する。ベラは同日、DSMツールの正式公開と活用範囲を案内した。

国連食糧農業機関(FAO)は、土壌が今後25年で人為起源排出の約1割に相当する炭素を隔離し得ると推計する。土壌の測定・監視・報告・検証(MMRV)コストの高さが実装の壁だったが、VT0014はそのボトルネックを狙い撃ちする設計である。

VT0014は、DSMに用いるデータ駆動型モデルの選定・較正・検証・適用を、プロジェクト期間全体でどう運用すべきかを細かく規定する。ALMの主要方法論であるVM0042(改善農地管理)やVM0032(草地の持続可能化)などで、SOCの空間的推定と不確実性評価を一貫手順で求められるようにした。これにより、プロジェクト間のばらつきが減り、クレジットの信頼性と比較可能性が高まる。

ペレニアルの専有モデル「ATLAS-SOC」は、35万件超の土壌サンプルと機械学習、ならびに生物地球化学的指標を統合する。各プロジェクトでは戦略的に抽出した少数のローカル試料でモデルを微調整し、試料点の間を高解像で補間する。従来法よりサンプル数を大幅に抑えつつ、フィールドレベルの結果を高密度に得ることで、農家の負担とコストを下げながら精度を高める。

ペレニアルの共同創業者兼最高製品責任者(CPO)デービッド・シュールマン(David Schurman)は「本ツールは土壌定量の『量子的飛躍』だ。既存プロジェクトのMMRVの壁を下げるだけでなく、新地域・新案件・新たな気候ファイナンスの機会を切り開く」と述べた。ベラの最高経営責任者(CEO)マンディ・ランバロス(Mandy Rambharos)は「DSMはALMプロジェクトの実装と拡大に伴うコスト低減のカギだ」と評価した。

ペレニアルは、カザフスタンで劣化草地50万ヘクタールの再生に取り組む開発者rTekと連携し、VM0032の下で市場アクセスが可能になったとする。バイエル(Bayer)など大手もMMRVパートナーとして導入を表明しており、6大陸で数百万ヘクタール規模の案件群に適用される見通しだ。

土壌炭素は衛星やセンサーの単独観測だけでは直接は測れず、サンプルに基づくモデル化と不確実性管理が要となる。VT0014は、この現実に沿ったモデル・サンプリングの最適化と検証の標準化を同時に担保する枠組みで、測定コストの逓減とクレジット品質の確保を両立させる。

ペレニアルはこれまでに2,500万ドル(約36.75億円)を、ジェンゼロ(GenZero)、ブルームバーグLP(Bloomberg LP)、マイクロソフト・クライメート・イノベーション・ファンド(Microsoft Climate Innovation Fund)等から調達してきた。事業ビジョンは地球上の1億エーカー(約4,047万ヘクタール)の再生を資金面から後押しすることだ。

本ツールは「モデルの透明性」と「現地サンプリングの最小要件」の運用が鍵である。初期案件の第三者検証とカーボンクレジット発行の実績が蓄積すれば、農地由来の炭素除去・排出回避クレジットの銀行性と調達意欲が高まりうる。

参考:https://www.perennial.earth/post/verra-vt0014-press-release