米ペンシルベニア州最高裁判所は1月6日、同州が東部諸州の排出権取引枠組み「地域温室効果ガス・イニシアチブ(RGGI)」へ参加することの是非を巡る上訴を棄却した。
ジョシュ・シャピロ州知事が2025年11月、共和党が主導する州議会との予算交渉の末にRGGIからの離脱に同意したことを受け、裁判所は訴えの利益が失われたと判断した。これにより、同州の火力発電所を対象としたカーボンクレジット購入の義務付けと、それによる巨額の環境投資計画は事実上、白紙となった。
今回の判決は、2024年5月に州最高裁が口頭弁論を実施してから約半年を経て下された。RGGIは現在、米国東部の11州が参加するキャップ・アンド・トレードプログラムであり、化石燃料を用いる発電事業者に対し、オークションを通じてCO2の排出クレジット購入を義務付けている。
ペンシルベニア州では、2022年4月にトム・ウルフ前知事の主導で参加規則が公布されたが、州議会や産業界からの強い反対により、その法的妥当性が長らく争われていた。
反対派の州議会議員やエネルギー業界は、州議会の承認なしに知事の権限でカーボンクレジット購入を義務付けることは「行政権の逸脱」であり、クレジットの購入費用は「違法な税金」に当たると主張してきた。これに対し、2023年11月に州下級審であるコモンウェルス裁判所は反対派の主張を認め、RGGIへの参加は州議会による適切な立法プロセスを経る必要があるとの判断を下した。今回の最高裁の決定は、この下級審判決を覆そうとした環境団体や州当局の上訴を退ける形となった。
環境保護団体や推進派は、RGGIへの参加が気温上昇を抑制するだけでなく、カーボンクレジットの販売収益を通じて数十億ドル(約数千億円)規模の資金を州内の持続可能なエネルギー事業へ投資できると訴えていた。ペンシルベニア州環境保護局(DEP)やシエラクラブ(Sierra Club)などは、クリーンな空気への権利を保障する州憲法を根拠に、排出制限の正当性を主張したが、政治的妥当性の喪失とともに法的議論も終止符を打たれた。
ペンシルベニア州は米国第2位の天然ガス産出量を誇るエネルギー大国であり、同州のRGGI離脱は米国内の炭素市場の拡大に大きなブレーキをかける可能性がある。
今後、州政府が独自の炭素価格付けを模索するのか、あるいは州議会主導で新たな気候変動対策法案を策定するのかが焦点となる。シャピロ知事は離脱と引き換えに成立させた予算において、次なるエネルギー政策の優先順位を明確にする必要がある。
今回のペンシルベニア州最高裁による棄却は、全米の炭素市場関係者にとって大きな失望を伴う決定となった。全米有数の化石燃料産出州である同州のRGGI参加は、米国内の規制型炭素市場におけるクレジット供給と需要のバランスを劇的に変える可能性を秘めていたからだ。
特筆すべきは、今回の事態が「法的判断」というよりも、予算案を通すための「政治的取引」によって決着した点である。これは、カーボンクレジット制度がどれほど科学的・環境的に正当であっても、エネルギーコストの上昇を懸念する保守層や産業界との政治的コンセンサスがなければ、永続的な制度構築は困難であることを改めて浮き彫りにした。
今後、日本の事業者や投資家が注目すべきは、ペンシルベニア州がコンプライアンスカーボンクレジット市場を諦め、今後どのように「自発的な炭素除去(CDR)」やクリーンエネルギー投資へ舵を切るかである。知事はRGGI離脱の代償として共和党から一定の譲歩を引き出しており、今後は規制ではなく「奨励」ベースの気候変動対策が加速する可能性が高い。3月までに発表される次年度の政策パッケージにおいて、CDR技術への補助金や税制優遇措置が盛り込まれるかが次の関心ポイントとなるだろう。


