12月23日、欧州連合(EU)の欧州イノベーション会議(European Innovation Council: EIC)は、炭素鉱物化技術を専門とするクライメートテック企業のペブル(Paebbl)に対し、400万ユーロ(約6億4,000万円)の助成金を交付することを決定した。
同社は建設材料であるコンクリートを大規模な排出源から永続的な炭素吸収源(カーボンシンク)へと転換するプロジェクトを推進しており、今回の資金獲得により革新的な炭素除去(CDR)技術の実用化を加速させる。

本プロジェクトは、従来のセメント製造において最も排出量が多い中間製品「クリンカー」の代替を目的としている。ペブルは提携パートナーと共に、マグネシウムベースのケイ酸塩を用いた代替結合材を開発した。この素材は、大気中から回収されたCO2を鉱物化のプロセスを通じて内部に永久封じ込める特性を持つ。
開発される素材は、コンクリートの強度や耐久性を損なうことなく、セメントの混合材料や一部代替として機能する。研究チームは機械学習と高度なシミュレーションを活用し、CO2の鉱物化プロセスと、実用化に向けた低炭素コンクリート配合設計の高速化を図る。
今回のコンソーシアムには、プレキャストコンクリート大手のコンソリス(Consolis)や建設資材大手のホルシム(Holcim)といった産業界の有力企業に加え、デルフト工科大学(Delft University of Technology)やルーヴェン・カトリック大学(KU Leuven)などの研究機関が参画している。
欧州委員会(EC)にとって、本取り組みは漸進的な効率改善ではなく、ディープテック(深層技術)を用いて「削減困難な(ハード・トゥ・アベイト)」部門の脱炭素化を図る広範な戦略の一環である。建設業界においては、単なる排出削減にとどまらず、建築物そのものを炭素除去の手段とする新たなフェーズへの移行を意味する。
今後は、2026年以降の商用プラント展開に向けた技術実証の進展が注視される。
今回のペブルへの大規模助成は、欧州が「排出削減」から「炭素除去(CDR)」へと明確に舵を切った象徴的な動きと言える。建設資材へのCO2封じ込めは、数千年にわたる貯留の永続性が担保されるため、カーボンクレジット市場では極めて信頼性の高い「高付加価値クレジット」として取引される可能性が高い。
日本の建設業界においても、大林組や鹿島建設などがCO2吸収型コンクリートの開発を急いでいるが、欧州はEICのような公的資金を投じて、スタートアップとホルシムのような世界的巨人を結びつける「エコシステム」の構築で一歩先んじている。
今後、この技術が標準化されれば、建設時に創出される炭素除去量をクレジット化し、建設コストの一部を相殺する新たなビジネスモデルが主流になるだろう。
参考:https://cordis.europa.eu/project/id/101223135
参考:https://paebbl.com/news-feed/paebbl-reaches-2-500-hours-of-operations


