米炭素除去(CDR)スタートアップのオリジェン(Origen)は8月、米ノースダコタ州のエネルギー・環境研究センター(EERC)で、自社開発のゼロ排出型キルン(石灰焼成炉)の試験運転を開始した。高さ7階建てを超える規模で、年間2,000トン超の二酸化炭素(CO2)除去を可能にする世界初のシステムである。石灰石を活用した直接空気回収(DAC)の商業化に向け、大きな一歩となる。
同社は石灰石に含まれるCO2を焼成によって取り除き、残った高反応性の石灰で大気中のCO2を吸着し、再び石灰石へ戻す独自サイクルを確立した。この過程で分離された純度の高いCO2は地下貯留され、持続的なCDRにつながる。オリジェンによれば、ゼロ排出で石灰を量産できる技術は世界で存在しておらず、「CDRと産業脱炭素化を同時に推進する鍵になる」という。
オリジェンの設計する「酸素燃焼式フラッシュカルシナー」は、再生可能エネルギーへの依存を避けつつ、天然ガス、バイオガス、水素など多様な燃料を使用できる。燃焼時の排出ガスはすべて回収されるため、燃料種にかかわらず高いCDR効果を維持できる。これにより再エネ電力が不足する地域でも導入が可能となり、コスト抑制と展開スピードの両立が期待されている。
同社はカナダのエンジニアリング企業ハッチ(Hatch)と協力し、ルイジアナ州の「ペリカンDACハブ」で初の商業規模プラント建設を計画中である。ここではシェル、三菱商事とも連携し、大規模CDRプロジェクトの中核拠点を目指す。ハッチの脱炭素技術リード、ジノ・デ・ヴィラ氏は「EERCでの稼働は、低電力で拡張可能なDAC技術を前進させる重要な成果だ」と述べた。
研究開発を率いたのは、オリジェンのクリスティーヌ・ベルトラン博士である。熱流体系の数値解析(CFD)分野で30年以上の経験を持ち、キルン設計から運転、スケールアップに至る基盤技術を支えてきた。ベルトラン氏は「ゼロカーボン石灰の製造可能性を実証できたことは、気候変動への挑戦に貢献する大きな一歩だ」と語った。
今後はEERCで自社開発の「空気コンタクター」の稼働を進め、石灰石を用いた完全なDACサイクルの実証に移る。オリジェンは「次の段階は商業施設の建設、そしてメガトン規模のCDR実現だ」と強調している。
参考:https://www.origencarbon.com/news/eerc-kiln-commissioning/