アイスランド南西部ヘリシヘイディ地熱発電所で6月19日、電力会社ON Power(Orka náttúrunnar)と鉱物化企業Carbfixが、炭素除去(CDR)施設「Steingerður」の商業運転を開始した。EUイノベーション基金から387万ユーロ(約6億5,000万円)の助成を受け、年間30,000トンのCO2とH2Sを水に溶かして地下の玄武岩層で鉱物化する。
発電所の温室効果ガス(GHG)排出量を95%削減し、アイスランドの2030年気候行動計画における非EU ETS部門の10%を単独で担う。
同施設はEU法下で初の「陸上」CO2永久貯留として承認済みであり、Silverstoneプロジェクトの中核を成す。助成額はEU ETS収入で賄われ、排出権価格の上昇と連動してCDRクレジットの収益機会が拡大すると見込まれる。欧州の平均炭素価格は2025年に1トン当たり約92ユーロに達するとの予測もある。
技術面では「直接水捕集」により蒸気サイクルからCO2とH2Sを同時除去し、わずか2年で岩石化させる。Carbfixはすでに同発電所で年間12,000トンのパイロット鉱物化実績を持ち、Steingerðurで処理能力を3倍に引き上げる。
開所式でヨハン・パル・ヨハンソン環境・エネルギー・気候相は「Silverstoneは科学、産業、政府が協働した成果だ」と強調した。またEU駐アイスランド大使クララ・ガンスラント氏は「厳選された初期案件として基金が選定した質の高さを示す」と述べ、EUとアイスランドの気候連携をアピールした。
2014年の実証開始から2020年の資金契約、2023年の建設着工を経て、2025年の運転開始に至った同プロジェクトは、今後10年間で累計15万トンのCO2を鉱物化する計画だ。玄武岩分布と地下水がそろう地域への水平展開が可能で、北米やアジアの地熱地帯からも引き合いが増えている。
カーボンクレジット市場では、鉱物化由来の「耐久型除去」が高値で取引され始めており、クレジット単価はEU ETS相場の3〜4倍で推移する例も報告される。発電事業者が自家削減分を外部販売できれば、電力コスト抑制と追加投資の自己資金化が同時に進む。