オハイオ州上院は5月20日、CCS(炭素回収・貯留)の州内事業化に向けた規制枠組みを定める代替法案「Sub. H.B. 170」を全会一致で可決した。法案はオハイオ州下院に差し戻され、上院修正の承認手続きに入る。
本法案は、Class VI圧入井を用いた地下貯留層へのCO2圧入事業を州法の枠組みで認可するもので、地下空隙(pore space)の所有権の明確化、所有権の譲渡、強制統合(forced pooling)の手続きを定める。CCS事業の監督権限は、オハイオ州天然資源局の石油・天然ガス資源管理部門に置かれる。
法案の中核には、Class VI圧入井に対する規制権限を連邦の米国環境保護庁(EPA)から州に移管する「プライマシー」取得の構想がある。州レベルでの許認可権限の確立により、案件審査の迅速化と域内投資の誘致を企図したものである。
上院エネルギー委員会が提出した代替法案では、複数の論点で実質的な修正が加えられた。
最大の修正は、強制統合の発動要件の引き上げである。事業者は、地下空隙の所有者に対して3回の接触を試み、誠実に交渉したうえで、所有者の75%から同意を得てはじめて強制統合を申請できる。下院可決版での70%要件から5ポイントの引き上げとなる。さらに、統合命令が地表へのアクセス権を自動的に付与するものではないことも明示され、地表利用については地権者との個別合意が必要となる。
財政面では、州への圧入料が1トンあたり5.25セントから5セントに引き下げられた一方、貯留CO2に対する1トンあたり3セントの賦課金を原資とするホストコミュニティ基金が新設された。基金は郡財務官の管理下に置かれ、インフラ、教育、公園、公共安全の各分野で地域に還元される設計となっている。
事業者の財務保証についても柔軟性が拡張された。従来想定されていた履行保証債券に加え、信用状、エスクロー、保険、自家保険の各形式が認められる。
長期責任の制度設計も整理された。事業終了後、漏出が確認されず完全遵守が立証された場合、州は事業完了証明を発行し、貯留CO2に関する長期責任を州が引き受ける構造となっている。地権者は下流のクレームから遮断される。
本件は、ノースダコタ州、ワイオミング州、ルイジアナ州、ウェストバージニアに続く州レベルでのCCS規制枠組み整備の流れに位置づけられる。EPAから州へのClass VIプライマシー移管は、連邦審査の長期化に対する事業者側の不満を背景に、ここ数年で複数州が取り組んできた制度的課題である。
米国のCCS投資環境は、内国歳入法45Q条による税額控除という連邦インセンティブと、州レベルの許認可・所有権・責任移管の制度整備が組み合わさって成立する。連邦税制が需要側を、州法が供給側のオペレーション環境を担う構造である。オハイオ州の今回の動きは、この二層構造の州側ピースをさらに埋めるものといえる。
もっとも、州法整備による投資環境の制度的成熟が、米国を本格的なCCS事業の主要地域として固定化させる流れに反するという議論もあり、化石燃料関連産業の延命策との批判は論点として残る。本法案がオハイオ州の石油・ガス・農業・製造・研究の各業界連合による支持を受けている事実は、その懸念を裏付ける材料でもある。
強制プーリング条項は、CCS事業の事業化可能性を左右する制度的なボトルネックである。
地下貯留層は数百から数千の地権者の所有する空隙にまたがって存在することが多く、全員同意を要件とすれば事業は事実上不可能となる。一方、要件を低く設定しすぎれば地権者保護が形骸化する。70%から75%への引き上げは、地権者側の交渉力を実質的に強化する設計変更であり、上院段階での農業セクター等からの圧力を反映した結果と読み取れる。
事業者にとっては、初期の地権者交渉コストの上昇を意味する。3回の接触義務と誠実交渉要件が手続的に明示されたことで、訴訟リスクの管理コストも上昇する。一方、75%の同意ハードルを超えれば、残り25%に対する強制統合が法的に確定する設計は、全員同意要件と比較すれば事業化可能性を担保する。
本件は、米国CCS規制整備の構造的前進として位置づけられる。
連邦税制の45Qに対し、州レベルのプライマシー取得と所有権・責任制度の明文化が組み合わさることで、米国内のCCS事業の制度的予測可能性は段階的に高まりつつある。オハイオ州の動きは独自の転換点というよりも、ノースダコタ・ワイオミング・ルイジアナ・ウェストバージニアに続く既定路線の延長線上にあるが、強制プーリング要件を70%から75%に引き上げた点は注目に値する。地権者保護と事業化可能性のバランス設計において、75%という閾値は他州との制度競争の中で一定の基準となりうる。
今後CCS事業を検討する各州が、オハイオ州モデルを参照するか、より緩い要件で投資誘致を優先するかは、米国内の規制競争の方向性を左右する論点となる。