世界の主要石油・ガス企業12社が加盟する石油・ガス気候変動イニシアチブ(Oil and Gas Climate Initiative, OGCI)は、CO2貯留許認可の進捗を可視化するオンラインツール「CO2 Storage Licence Tracker(CO2貯留ライセンス・トラッカー)」を公開した。英国、米国、ノルウェーを含む9カ国の公的データを統合し、探査・貯留の両段階におけるライセンス状況を一元的に把握できる仕組みだ。
この新プラットフォームは、政府・事業者・投資家が炭素回収・利用・貯留(CCUS)プロジェクトの進捗を比較・評価できるように設計されている。OGCIは「透明性の向上と情報共有が、CO2貯留ハブの展開を加速させる鍵になる」と強調している。
トラッカーでは、探査ライセンス(exploration)と貯留ライセンス(exploitation)の2種類の許可区分を整理。前者は貯留候補地の調査を認める一方、後者はCO2注入と長期的な貯留運用を許可する。各国の公表情報をもとに、地域別・段階別のライセンス件数を比較できる。
OGCIによれば、この可視化により政策担当者は規制上のボトルネックを早期に把握でき、企業はプロジェクト計画を迅速に進められるという。
DNVのブレア・マクマスター氏は「政策設計とインセンティブの精緻化がCCUS拡大の鍵だ」と述べ、規制の断片化が依然として課題であると指摘した。リンダ・エンジニアリングのトマーシュ・スヒー氏も「透明な許認可制度が投資判断を後押しする」と強調した。
OGCIの最新報告書によると、加盟各社は現在世界40カ所以上で大規模CCUSハブを開発中で、2030年までに年間3億トン以上のCO2を回収できる潜在能力を持つ。
すでにイタリアのエニ社が進めるラヴェンナCCSではCO2注入が開始され、ノルウェーのノーザンライツ(Northern Lights)も産業排出源からのCO2受け入れ準備を完了した。
ただし専門家らは、大規模で恒久的な地中貯留はまだ初期段階にあると警鐘を鳴らしており、今後の成長には明確な政策枠組みとインフラ投資が不可欠だと指摘している。
OGCIは2016年に設立した気候投資ファンド(Climate Investments)を通じ、低炭素技術への投資総額は約1,000億ドル(約15兆円)に達している。さらに2023年にはCOP28で石油・ガス脱炭素化憲章(Oil & Gas Decarbonization Charter, OGDC)の発足を支援し、100カ国超の企業連携を推進した。
CO2貯留ライセンス・トラッカーは、こうした国際的な協調を実務レベルで支えるデジタル基盤として位置づけられる。今後、データ更新と対象国拡大を進め、グローバルな炭素除去(CDR)市場の制度的信頼性を高める狙いがある。