インド国営発電会社NTPCと英国のカーボンクリーン(Carbon Clean)は10月9日、マディヤ・プラデシュ州のヴィンディヤチャル超大型火力発電所で、排ガス中のCO2から合成メタノールを生成することに成功したと発表した。実証設備は1日あたり20トンのCO2を回収し、グリーン水素と反応させてメタノールを合成する仕組みで、同国初の「カーボン・トゥ・メタノール」生産事例となる。
このプロジェクトは、NTPCの研究開発部門「エネルギー技術研究アライアンス(NETRA)」と、英国を拠点とするカーボンクリーンが共同で開発したもの。500メガワット石炭火力の第13号機で2年間にわたり稼働しており、同社の「CaptureX」セミモジュラー型技術を活用して煙道ガスからCO2を直接分離・精製する。生成されたCO2は99%以上の高純度を保ち、再利用・再販・貯留に対応できる。
1日20トン規模のCO2回収は、インドにおける炭素回収・利用・貯留(CCUS)実装の技術的・経済的妥当性を示す重要な実証段階となる。NTPCはこの成果を踏まえ、次の段階としてアンドラ・プラデシュ州シムハドリ火力発電所で、25トン規模のCO2を回収しエタノールを製造する計画を進めている。
カーボンクリーンのアニルッダ・シャルマ会長兼CEOは「英国とインドの協力は、産業部門の脱炭素化を拡大する鍵だ。ヴィンディヤチャルの成功は、技術が実際の産業条件下で高い信頼性を発揮することを証明した」と述べた。
この発表は、英国首相が率いる対印ビジネス代表団の訪印と時期を同じくして行われた。両国は7月に署名した自由貿易協定を基盤に、クリーンエネルギー分野での協業を加速させており、今回の成果はその象徴的事例と位置づけられる。
NTPCは現在、インドの発電量の約4分の1を担い、総設備容量8万3,000メガワット超を保有する。2032年までに再生可能エネルギー6万メガワットを含む総容量13万メガワット体制の構築を目指す。同社は火力依存の削減を進めつつ、CO2回収・再利用技術の確立を次世代事業の柱に据えている。
一方、カーボンクリーンはセメント・製鉄・石油精製など「脱炭素が難しい産業」に向けたカーボンキャプチャー技術で世界をリードする企業で、現在18の特許群を有し、30カ国で実績を持つ。インド国内にも完全子会社「カーボンキャプチャー・テクノロジーズ・プライベート・リミテッド」を展開し、現地での商用展開を強化している。
今回のメタノール生成成功は、インド政府が年内に発表予定の「国家CCUSミッション」を後押しするものであり、排出源を「新たな資源」として再定義するカーボン・トゥ・バリュー戦略の実証例といえる。火力由来CO2を原料とする燃料・化学品の製造が商業化されれば、インド国内のカーボンクレジット市場にも新たな基準をもたらす可能性がある。