欧州初の商用CCSネットワーク稼働 「ノーザンライツ」が初のCO2圧入

村山 大翔

村山 大翔

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ノルウェー西岸オイガルデンの炭素回収・貯留(CCS)事業「ノーザンライツ」が8月25日に初めてCO2を圧入し、正式に稼働を開始した。世界初の越境型オープンアクセス輸送・貯留ネットワークとして、欧州の産業脱炭素化に向けた大きな転換点となる。

稼働開始に伴い、独ハイデルベルク・マテリアルズのブレビーク工場(セメント製造)の煙突から回収されたCO2が、専用船でオイガルデンの受入基地へ運ばれた。その後、100キロメートルの海底パイプラインを通じて北海の海底下2,600メートルにある「オーロラ」貯留層に圧入された。

事業はエクイノール(Equinor)、シェル(Shell)、トタルエナジーズ(TotalEnergies)の3社が共同出資し、建設と運営はエクイノールが担当している。ノルウェー政府の旗艦プロジェクト「ロングシップ」の一環であり、CO2の輸送・貯留を第三者に提供する初の商用サービスとなる。

エクイノールのアンダース・オペダル最高経営責任者(CEO)は「CO2を安全に海底下へ貯留したことは、CCS産業の実現可能性を示す大きな節目だ」と述べた。

フェーズ1は満枠 2035年に3,000〜5,000万トン規模へ拡大

ノーザンライツの第1期は年間150万トンのCO2貯留能力を持ち、すでに予約が埋まっている。今春承認された第2期では、欧州連合の「コネクティング・ヨーロッパ・ファシリティ(CEF)」の資金支援を受け、2028年までに年間500万トン以上に拡張される予定だ。

ノルウェー国内外の複数の産業がすでに利用を表明している。ハイデルベルク・マテリアルズに加え、蘭ヤラ(Yara)のアンモニア工場、デンマークの再エネ大手オーステッド(Ørsted)のバイオマス発電所、スウェーデンのストックホルム・エクサージ(Stockholm Exergi)の排出削減計画が対象に含まれる。

さらに2035年までに、エクイノールは欧州と米国の両市場で合計3,000万〜5,000万トン規模のCCS能力を整備する方針を示している。

欧州産業脱炭素の試金石

国際エネルギー機関(IEA)は、セメントや鉄鋼といった「脱炭素が困難な産業」ではCCSが不可欠と指摘している。特にセメント生産では、原料の石灰石を焼成する過程で不可避的にCO2が排出されるため、代替手段が限られる。

ノーザンライツのシステムエンジニアリング責任者ハイディ・フィエルバング氏は「この深層地質層は天然の金庫として作用し、リアルタイムで監視しながらCO2を確実に閉じ込める」と説明した。

今回の稼働により、欧州のカーボンクレジット市場にも新たな動きが期待される。今後、各国の排出削減義務や自主的クレジット需要の中で、越境型のCO2輸送・貯留インフラがどのように機能するかが焦点となる。

参考:https://www.shell.com/news-and-insights/our-stories/following-the-northern-lights-inside-a-pioneering-project.html

参考:https://totalenergies.com/news/press-releases/norway-first-co2-storage-northern-lights