米ノースダコタ州裁判所、CO2強制貯留法に違憲判決 CCSパイプライン計画の土地利用権巡り「正当な補償」欠如と指摘

村山 大翔

村山 大翔

「米ノースダコタ州裁判所、CO2強制貯留法に違憲判決 CCSパイプライン計画の土地利用権巡り「正当な補償」欠如と指摘」のアイキャッチ画像

米ノースダコタ州の地区裁判所は12月2日、土地所有者の合意が一部得られれば二酸化炭素(CO2)の地下貯留を強制できるとする州法に対し、憲法違反との判決を下した。この判決は、米中西部で進行中の大規模な炭素回収・貯留(CCS)プロジェクト、特にサミット・カーボン・ソリューションズ(Summit Carbon Solutions)が進めるパイプライン計画の法的基盤を揺るがすものであり、米国の脱炭素インフラ整備に重大な遅延をもたらす可能性がある。

「孔隙」の強制統合は財産権の侵害

ノースダコタ州北東部司法地区のアンソニー・スウェイン・ベンソン判事は、地元の地権者団体「ノースダコタ・ランドオーナーズ・アソシエーション(Northwest Landowners Association)」が州政府などを訴えた裁判において、原告側の主張を認める判断を示した。

争点となったのは、CO2貯留予定地の地権者のうち60%以上が合意すれば、残る反対派の土地の地下にある「孔隙(こうげき:岩石内部の隙間)」の使用権も強制的に統合(アマルガメーション)できるとする州法の規定である。ベンソン判事は、この規定が「陪審員によって決定される正当な補償」への道筋を提供しないまま、政府公認による財産権の収用を認めているとし、州憲法および合衆国憲法に違反すると結論づけた。

原告代理人のデリック・ブラーテン弁護士は、「裁判所は基本的に、憲法がその法律に優先すると判断したため、当該法律は執行不能となった」と述べ、判決の意義を強調した。

サミットのCCS計画への波及

この判決は、エタノール工場からのCO2排出を回収し、パイプラインで輸送してノースダコタ州の地下深くに恒久貯留するサミット・カーボン・ソリューションズの計画に直接的な影響を及ぼす。

同社はすでに州産業委員会からCO2貯留許可を取得しており、対象地域の地権者の約92%から参加合意を得ていた。しかし、今回の判決により、残る少数派の地権者に対し、強制統合の仕組みを用いて地下利用権を確保することが法的に不可能となる恐れがある。

地権者団体のトロイ・クーンズ代表は、「企業は良きパートナーとなり、100%の自発的参加を得る努力をすべきだ」と述べ、強制的な手法への反対姿勢を鮮明にした。一方でブラーテン弁護士は、公益性が認められるプロジェクトであれば、最終手段として「土地収用権(Eminent Domain)」の行使も選択肢になり得るとの法的見解を示している。

州政府の反応と今後の展望

ノースダコタ州のドリュー・リグレー司法長官は、「州議会は私有財産権と経済発展のニーズを適切に調整したと考えている」と述べ、判決内容を精査した上で控訴を含む法的対応を検討する意向を示した。

CCS推進派は、地下貯留を重工業や発電部門の脱炭素化に不可欠なツールと位置づけており、米国では税制優遇措置などを背景に多数のプロジェクトが進行中である。しかし、広範な地下地質構造へのアクセス権をどう確保するかという法的課題が顕在化したことで、投資家や開発事業者は難しい判断を迫られることになる。

本件に関しては、州およびサミットによる最高裁判所への控訴が予想されるほか、サミット社の貯留許可そのものの適法性を問う別の訴訟も進行中であり、司法判断の行方が米国のCDR(炭素除去)市場の拡大速度を左右する展開となりそうだ。

参考:https://northdakotamonitor.com/2025/12/02/north-dakota-judge-rules-in-favor-of-landowners-finds-law-unconstitutional/#:~:text=Summit%20Carbon%20Solutions%20and%20other,Jackson%20Lofgren%20in%20that%20case.