2025年10月24日、ニューヨーク州最高裁判所(ウルスター郡)は、州政府が気候変動対策の中核法である「気候リーダーシップと地域保護法(Climate Leadership and Community Protection Act:CLCPA)」の履行義務を怠っていると判断した。判事ジュリアン・シュライブマンは、州環境保全局(DEC)が法定期限である2024年初頭までに必要な排出規制を策定していなかった事実を「争いのない事実」とし、「複雑であることは法的な免責理由にはならない」と厳しく断じた。
CLCPAは2019年に制定され、1990年比で2030年までに温室効果ガス排出量を40%削減、2050年までに85%削減するという全米でも最も厳格な数値目標を掲げている。判事はDECに対し、2026年2月6日までに同法に整合する新たな規制案を提示するよう命じた。
この訴訟は、州知事キャシー・ホークルが同法の実行手段として準備されていた排出権取引制度「キャップ・アンド・インベスト(Cap and Invest)」の導入を突然停止したことを受け、環境団体が2025年3月に提訴したものだ。報道によれば、DECと州エネルギー研究開発庁(NYSERDA)は年初までに同制度の草案を完成させていたが、知事の政治判断により凍結された。
裁判でDEC側は、「規制導入はニューヨーク州民に過大な経済的負担を強いる」と主張したが、シュライブマン判事はこれを退け、「法が課す義務を行政の裁量で回避することはできない」と指摘した。判決は、州議会が法改正を行わない限り、DECが施行規則を策定するしかないと結論づけている。
CLCPAの実行計画である2022年の「スコーピングプラン」では、キャップ・アンド・インベストが中心的な手段として位置付けられており、今回の司法判断は事実上その再開を迫る内容となっている。ただし、DECが同制度に代わる方策を2月までに提示できるかは不透明だ。
判決を受け、ホークル知事は声明で「エネルギー供給の安定性と事業環境を守ることを最優先する」と強調し、連邦政府のクリーンエネルギー政策への消極姿勢や高インフレ、電力供給不安など「現実的制約」を考慮すべきだと述べた。その上で「立法府と協力しCLCPAの修正も含めて全ての選択肢を検討する」として、控訴の可能性も示唆した。
環境団体側は「州政府は法的義務を果たすべきであり、脱炭素への政治的迷走を終わらせる時だ」と指摘している。
ニューヨーク州は排出権取引制度の実施を通じ、排出削減の経済的インセンティブを市場で創出する計画だった。仮に制度が再始動すれば、州内のカーボンクレジット価格形成や炭素除去(CDR)プロジェクトの認証枠組みに直接的な影響を与える可能性がある。
次の焦点は、2月の州議会会期開始までにホークル政権がどのような修正案を提示するかにある。司法の最後通告を受け、ニューヨーク州の脱炭素政策は政治と制度設計の岐路に立たされている。
参考:https://nysfocus.com/2025/10/24/new-york-climate-law-regulations-trial-clcpa-decision