英国、原子力活用で「DAC燃料」商用化へ アイルランドNEG8が重要契約「獲得」

村山 大翔

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アイルランドの大気直接回収(DAC)技術開発企業であるNEG8カーボン(NEG8 Carbon)は2025年11月24日までに、英国で進行中の原子力エネルギーを活用した持続可能な航空燃料(eSAF)製造プロジェクト「Eq.フライト(Eq.flight)」のフェーズ1契約を締結した。英国運輸省(Department for Transport)の資金支援を受けた本プロジェクトは、小型モジュール炉(SMR)などの原子力から得られる熱と電力を用いてDACを駆動し、回収したCO2から合成燃料を大規模生産する画期的な取り組みである。

原子力×DACで「eSAF」量産へ

本プロジェクトを主導するのは、英国のプロジェクト開発企業エクイリブリオン(Equilibrion)だ。同社は、SMRや先進モジュール炉(AMR)といった次世代原子力を、クリーン燃料生産のための安定した低炭素エネルギー基盤として活用することを目指している。

今回の契約により、NEG8カーボンが提供するDAC技術で大気中から回収された二酸化炭素(CO2)は、グリーン水素および原子力由来の電力と組み合わされ、特殊な合成プロセスを経てeSAFへと変換される。このプロセスで製造されるeSAFは、従来のジェット燃料と比較してライフサイクル全体で排出量を90%以上削減できる設計となっており、今後厳格化される国際的なSAF使用義務(マンデート)への準拠を目指す。

英政府ファンドが後押し

「Eq.フライト」は、英国運輸省が管轄する「2025年先進燃料基金(AFF)」から、フェーズ1の支援として100万ポンド(約2億円)を獲得した。AFF全体では17のクリーン航空プロジェクトに対して総額6,300万ポンド(約123億円)が投じられており、2022年以降の英国政府による低炭素航空燃料への支援総額は1億9,800万ポンド(約386億円)に達する。欧州でSAF混合規制が強化される中、英国国内でのサプライチェーン構築を加速させる狙いだ。

低炭素熱源としての原子力活用

NEG8カーボンのDAC技術は、低炭素な熱と電力を利用して効率的に稼働するよう設計されているため、原子力統合型の生産プロセスとは極めて親和性が高い。原子炉から生じる熱をCO2回収プロセスに直接利用することで、eSAF製造の経済性を高めつつ、上流工程での排出量を大幅に抑制することが可能となる。

NEG8カーボンの創設者兼マネージングディレクター、レイ・ノートン(Ray Naughton)氏は次のように述べた。 「この契約は、DACによるCO2を用いたeSAF製造分野において、NEG8カーボンをリーダーの一角に位置づけるものだ。EU(欧州連合)では2050年までに燃料混合率の70%をSAFにするというマンデートがあり、これが市場の潜在力を牽引している。世界のSAF市場価値は2050年までに4,000億ドル(約60兆円)に達すると予測されており、我々はその主要プレイヤーとなる位置につけた」

また、エクイリブリオンの共同創設者であるフィリップ・ロジャース(Philip Rogers)氏とキャロライン・ロングマン(Caroline Longman)氏は共同声明で、「先進的な原子炉によるPower-to-Liquid(液化燃料製造)は、気候変動に大きなインパクトを与えるために必要な生産規模を実現する可能性を秘めている」と指摘した。

本プロジェクトのフェーズ1契約は、2020年代後半に予定されている産業規模での展開に向けた重要な基盤となる。

参考:https://neg8carbon.com/lift-off-for-neg8-carbon-in-sustainable-aviation-fuel/