マイクロソフトが過去最大級の土壌炭素由来カーボンクレジット285万トンを購入 米スタートアップIndigoと12年間の長期契約 

村山 大翔

村山 大翔

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米IT大手のマイクロソフト(Microsoft)は2026年1月15日、再生農業を手掛けるインディゴ・アグリカルチャー(Indigo Agriculture)から、285万トン分に及ぶ土壌炭素除去CDRクレジットを購入する契約を締結した。

今回の提携は12年間にわたる長期プロジェクトであり、農業分野の土壌炭素貯留を活用したCDR取引としては世界最大規模の一つとなる。マイクロソフトは2030年までのカーボンネガティブ達成を掲げており、本契約はその実現に向けたポートフォリオ拡充の重要な一環である。

両社の提携は今回で3度目となる。

マイクロソフトは2024年6月に4万トン、2025年5月には6万トンの土壌CDRクレジットを同社から購入しており、今回の285万トンという規模は過去の取引を大幅に上回る。今回のクレジットは、ICVCMが定めるコア・カーボン原則(CCPs)の承認を土壌炭素分野で初めて受けた案件の一つとして、その質の高さが担保されている。

本プロジェクトの基盤となるのは、インディゴ・アグリカルチャーが展開する「カーボン・バイ・インディゴ(Carbon by Indigo)」プログラムである。同プログラムは、米国の農家が不耕起栽培やカバークロップ(被覆肥料)の導入といった再生農業を実践することで、土壌に炭素を固定する取り組みを支援している。再生農業は、年間3.5ギガトン以上のCO2換算の排出削減・除去ポテンシャルを持つとされ、気候変動対策の有力な手段として国際的に注目されている。

インディゴ・アグリカルチャーは現在、800万エーカー(約320万ヘクタール)を超える農地ネットワークを有している。同社はこれまでに、政府の補助金とは別に総額4,000万ドル(約60億円)を協力農家に支払っており、農家の収益源の多角化と地域の経済活性化にも寄与している。また、再生農業の導入は土壌の保水力を高め、これまでに640億ガロン(約2.4億キロリットル)の節水を実現するなど、気候適応策としての側面も併せ持つ。

カーボンクレジットの創出にあたっては、気候行動リザーブ(CAR)の「土壌肥沃化プロトコル(SEP)」に基づき、最新のリモートセンシング技術や機械学習、地上での科学的検証を組み合わせて、排出削減量と除去量を厳密に測定している。土壌炭素の課題である「永続性」のリスクに対しては、マイクロソフトとの40年間の契約期間に加え、SEPが定める100年間のモニタリングおよび逆戻り(炭素の再放出)に対する補償義務を遵守する体制を整えた。

インディゴ・アグリカルチャーの政策・パートナーシップ・インパクト担当シニアディレクターであるメレディス・ライスフィールド氏は「マイクロソフトによる今回の購入は、流域保護や農業コミュニティの支援、そして世界のネットゼロ目標達成に向けた再生農業の変革力を示すものである」と述べた。

また、マイクロソフトの炭素除去担当ディレクターであるフィリップ・グッドマン氏は「検証済みのクレジットと生産者への支払いを通じて測定可能な成果を出し、高度なモデリングで土壌炭素科学を前進させるインディゴのアプローチを評価している。同社はプロジェクトの品質向上にコミットすることで、炭素市場の信頼性を高めている」と指摘した。

マイクロソフトは今後も、2030年の目標達成に向けて土壌CDRを含む多様な技術への投資を加速させる方針であり、本契約の履行状況は今後の大規模な自然由来ソリューションの試金石となる。

今回のマイクロソフトによる超大型契約は、ボランタリーカーボンクレジット市場において長く議論されてきた「土壌カーボンクレジットの信頼性」という壁を、科学的エビデンスとICVCMの「CCPラベル」によって突破した象徴的な出来事だ。

これまで土壌CDRは、森林由来に比べて測定が難しく、炭素の固定期間(永続性)への懸念から、大企業による数百万トン単位の長期契約は稀だった。しかし、マイクロソフトが12年という長期スパンでコミットしたことは、再生農業が「質の高い炭素除去手法」として完全に機関投資家・大手バイヤーの信頼を得たことを意味する。

日本国内においても、農林水産省が進める「みどりの食料システム戦略」や、J-クレジットにおける水稲栽培(中干し延長)など、農業由来のクレジット創出が動き出している。

本ニュースは、今後、日本の農協やアグリテック企業が、単なる排出削減ではなく「高品質な除去(CDR)」として、いかに国際基準(ICVCM等)に準拠したクレジットを構築すべきかという、重要なマイルストーンを提示している。

今後は、日本企業のJ-クレジットと国際的なCCP認証クレジットの互換性や、国内での再生農業への投資加速が次の焦点となるだろう。

参考:https://www.indigoag.com/pages/news/indigo-to-sell-2.85-million-tonnes-of-carbon-removal-to-microsoft