米マイクロソフト(Microsoft)傘下の投資基金「マイクロソフト・クライメート・イノベーション・ファンド(Climate Innovation Fund)」は2025年12月2日、自然由来ソリューション(NbS)開発を手掛ける米パンテオン・リジェネレーション(Pantheon Regeneration)への戦略的投資を発表した。米国初となる商業ベースの大規模泥炭地(ピートランド)修復プロジェクトを支援し、科学的根拠に基づいた高品質な炭素除去(CDR)クレジットの創出を目指す。
この合意により、マイクロソフトはパンテオンが進める泥炭地修復イニシアチブ「ポコシン生態保護区I(PER I)」を資金面でバックアップする。PER Iは、米ノースカロライナ州スキャパノン・ハイに位置する1万4,500エーカー(約5,800ヘクタール)の広大な土地を対象としており、同地域は米国南東部沿岸でも最大級の泥炭層を有することで知られる。
泥炭地は、地球上で最も炭素密度が高い生態系の一つとされている。パンテオンはデューク大学(Duke University)との連携により、劣化・乾燥した湿地帯を再生させることで、大気中のCO2を急速に除去・固定する手法を採用している。この科学主導のアプローチにより、生物多様性の回復や水資源保全といった「コベネフィット(副次的効果)」を伴う、高品質な炭素除去クレジットの生成が可能になるという。
マイクロソフトにとって、今回の提携は同社の広範な炭素除去戦略の一環である。同社は、自然由来および工学的ソリューションの中でも、特に大規模展開(スケーラビリティ)の可能性が高いプロジェクトへの投資を優先している。今回の出資に伴い、マイクロソフト・クライメート・イノベーション・ファンドのディレクターであるエリカ・バシャム(Erika Basham)氏が、オブザーバーとしてパンテオンの取締役会に参加することも決定した。
バシャム氏は声明で「生態系を回復し、大気から炭素を除去するというパンテオン・リジェネレーションの使命を支援できることを嬉しく思う。彼らの革新的なアプローチは、排出を除去するだけでなく、生物多様性や水への影響といったコベネフィットをもたらす、拡張可能な科学的ソリューションに投資するという我々の目標と一致している」と述べた。
パンテオンのトリップ・ウォール(Tripp Wall)CEOは、今回の投資を「極めて重大なゲームチェンジャー」と位置づけ、次のようにコメントしている。 「パンテオンのチームは初日から、我々の生態系修復事業が持つ巨大な可能性に突き動かされてきた。それは、地球が必要とするランドスケープ(景観)規模の気候ソリューションを提供し、市場が切望している品質と量のカーボンクレジットを提供することだ。我々の活動の質が認められたことに感謝しており、この支援によって事業を拡大できると確信している」
今回の投資により、パンテオンはプロジェクトのパイプラインを加速させ、提供能力を拡大する方針だ。森林クレジットに対する品質懸念が一部で指摘される中、計測可能で炭素密度の高い「泥炭地」への注目が、機関投資家や巨大テック企業の間で急速に高まっていることを象徴する動きと言える。

