メタ(Meta Platforms)は2026年5月19日、AIデータセンター向けオンサイト天然ガス発電の上流メタン排出を緩和する目的で、低メタン強度の天然ガス属性証書(MiQ証書)の調達に向けた提案依頼書(RFP)を発出した。同社は電力消費の100%をクリーンエネルギーでマッチングしているとしているが、AI関連の電力需要が地域の再エネ供給を急速に上回りつつあり、その間隙を埋めるための天然ガス発電に対し、属性証書による緩和スキームを適用する構えである。
RFPの対象は、2026年中に天然ガスの生産・処理・輸送・貯蔵の各段階で発行されるMiQ証書である。MiQ証書は、認証された低メタン強度の操業を実施する天然ガス事業者に対して独立検証のうえ発行される属性証書であり、低排出ガス供給に対する需要シグナルを市場に送ることを狙いとする。メタは公式発表で、再エネ調達において累積30ギガワット超の新規容量を支援してきた実績を引き合いに、同様の購買力をメタン管理改善の促進にも活用する方針を示している。
本件の背景には、生成AIの計算需要に伴う米国データセンターの急速な拡張と、それを支える「メーター背後(behind-the-meter)」型のオンサイト天然ガス発電の拡大がある。地域の送電網が容量限界に達するなか、ビッグテック各社は系統制約を回避しながら無停電電源を確保する手段として、敷地内ガス発電への依存を強めている。メタはこのオンサイトガス由来の上流メタン排出を、属性証書によって相殺する仕組みを構築しようとしている。
本件は、カーボンクレジット市場との境界線という観点で精査される必要がある。MiQ証書はメタン排出強度に紐づく属性証書であり、除去系・回避系のいずれにも分類されるカーボンクレジットとは設計思想が異なる。GHGプロトコルやSBTiが定めるScope 3排出量の算定・削減ルールにおいて、属性証書が物理的排出の代替手段として認められる範囲は依然として限定的である。
一方で、本件はAI電力需要の爆発的拡大が環境属性市場の構造を変えつつある事例として読み取ることもできる。再エネ証書(REC)や保証起源(GO)に続き、メタン強度を取引対象とする市場が、ビッグテックの購買力を起点に新たな環境属性市場として立ち上がる可能性がある。証書市場の拡大は、ガス供給網のメタン管理水準を底上げする市場メカニズムとして機能しうる。
もっとも、第三の論点として、ネットゼロ目標との整合性に関する根本的な問いが残る。メタは2030年バリューチェーン全体でのネットゼロ達成を掲げる一方、AIインフラ拡張の物理的帰結としてオンサイト化石燃料発電を増設している。属性証書の購入によって帳簿上の排出を緩和する手法は、削減ヒエラルキー(mitigation hierarchy)における「回避・削減を優先し、残余排出のみを相殺する」という規範と緊張関係に立つ。
本件は属性証書市場の幕開けという肯定的評価、排出責任回避スキームの拡大という批判的評価、既存の環境属性市場の延長線上という中立的評価のいずれの立場からも論じうる事案である。
本件は、AI時代の電力需要構造がネットゼロ規範に対して投げかける構造的問いを最も鮮明に可視化した事例である。クリーンエネルギーマッチング(100% RE)という従来のスコープ2解消手段が、AI由来のオンサイト化石燃料発電という新たな現実の前で機能不全に陥り、ビッグテック各社は属性証書という第二の緩和層を必要とし始めた。
日系データセンター事業者・電力会社・ガス供給事業者にとって、本件は属性証書スキームの設計参照例であると同時に、ネットゼロ目標とAI電力需要の整合性をどのように開示説明するかという情報開示上の論点を先取りするものでもある。