XPRIZE Carbon Removal 大賞受賞企業のマティ・カーボン(Mati Carbon)は、岩石風化促進(ERW)プロジェクトのデータを統計的に検証するためのアプリケーションを無償で公開した。同社が自社プロジェクト向けに開発したものをERW・MRVコミュニティ全体に開放し、GitHub上でオープンソースとして利用可能としている。
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公開されたツールは、土壌データに含まれる微弱な炭素除去シグナルを、ノイズの大きいバックグラウンドから分離して評価することを目的とする。具体的には、固相系MRV手法として広く用いられているTiCAT法を前提に、ユーザーが投入したデータがERWに起因する風化速度としてどのように現れるかを可視化する。TiCAT法は、土壌試料中の金属陽イオン総量の変化を、チタンなど移動性の低い元素をトレーサーとして相対評価する手法である。
ツールは三つの問いを軸に検証を行う。観測されたシグナルが統計的に有意か、データが68%や95%といった信頼区間を制約するか、そしてシグナルが偽陽性である確率はどの程度か、というものだ。マティ・カーボンはこれらの検証を自社データに対して繰り返し適用したと説明している。
特筆すべきは、同社が成功データだけでなく社内で検証に失敗したデータセットも併せて公開した点である。同社は「透明性のために」と説明しており、ERWセクターにおいて自社の失敗事例まで開示する事例は限定的である。
ERWは研究・パイロット段階から商業規模での展開へと移行しつつある段階にあり、達成されたCO2除去量や副次便益の測定手法の精緻化が並行して進んでいる。業界関係者の間では、ERW由来カーボンクレジットの信頼性はMRVの厳格性に大きく依存するとの認識が共有されており、本ツールの公開はこの流れに沿った動きと位置づけられる。
一方で、特定企業が開発した検証ツールが業界の事実上の標準となる場合、その企業の方法論的前提がERWセクター全体の評価基準を規定する構図にもなりうるという見方もある。マティ・カーボンがTiCAT法を前提としてツールを設計している点は、他の固相系・液相系MRV手法を採用するプロジェクトとの比較可能性をどう確保するかという論点を残す。
なお、マティ・カーボン自身のデータは現在クレジット発行に向けた検証段階にあり、現時点では平均値や標準偏差といった集約指標で表示されている。匿名化された詳細データは検証完了後に公開される予定だという。
本件はERWセクターのMRV信頼性を業界共通基盤として底上げする取り組みとして位置づけられる一方、XPRIZE大賞受賞企業がオープンソース化を通じて事実上の評価標準形成を主導する構図でもある。失敗データの開示を含む透明性の打ち出しは、第三者検証機関や買い手による品質判断のリファレンスポイントとなる可能性が高く、後発プロジェクトは同等水準の統計的厳密性を求められる方向に向かう。
MRVのオープン化がERW系除去カーボンクレジットの価格・流動性をどう左右するかが、今後の論点となる。