丸紅グループ傘下の英スマーテストエナジー(SmartestEnergy)は2026年5月26日、オーストリアのカーボンアセットマネージャーであるエコネティクス(Econetix)とCORSIA適格カーボンクレジットの複数年供給契約を締結したと発表した。契約金額は数百万ドル規模の長期フォワード契約となる。
エコネティクスにとっては数カ月内で2件目となる主要CORSIA供給契約であり、CORSIA第一段階の遵守期限である2028年を見据えた供給側の体制構築が加速していることを示す事例である。
供給対象となるカーボンクレジットは、エコネティクスがアフリカで展開する認証済みプロジェクトポートフォリオから組成される。具体的にはコンゴ民主共和国(DRC)におけるクックストーブ普及および太陽光ランプ配布の各プログラムが中心となる。
スマーテストエナジーは丸紅グループの信用力とグローバルなコモディティ取引基盤を活用し、世界の航空会社および法人需要家に対してこれらのクレジットを販売する役割を担う。
本契約の制度的基盤は、エコネティクスが本年初頭にDRC環境省から取得したパリ協定6条に基づく認可レター(LoA)にある。同社は同国で6条認可を取得した初期の事業者の一社であり、このホスト国認可によりコリ調整(Corresponding Adjustment)処理を通じた二重計上の防止が法的に担保され、当該クレジットが国際コンプライアンス市場での適格性を獲得する構造となっている。
エコネティクスは現在、DRCに加えてウガンダ、タンザニア、マラウイ、シエラレオネの5カ国で10件超のプロジェクトを6条認可およびCORSIA認証の取得プロセスに乗せている。同社はプロジェクト開発から6条認可、コリ調整、レジストリへのラベリング、商流執行まで、CORSIAバリューチェーンを一気通貫で運営できる数少ない事業者の一つと位置づけられる。
スマーテストエナジー側からは、需給逼迫局面における買い手側の質的選別の進行が読み取れる。同社のグローバル環境市場担当バイスプレジデントであるヴィシュヌ・アガルワル(Vishnu Aggarwal)氏は「CORSIA市場は急速に成熟しており、買い手は供給の品質と健全性に対してますます選択的になっている」と述べた。
CORSIA第一段階で必要となる適格クレジット需要は、2035年までに数億トン規模に達する見通しがある。一方で6条認可およびCORSIA認証の双方を満たす供給は依然として限定的であり、認可済み供給ソースの早期確保競争が本格化している段階にある。
もっとも、本案件のアフリカ集中型ポートフォリオ、とりわけクックストーブ系方法論への依存度には品質面の論点が残る。同方法論は排出削減量の過大計上リスクを巡る批判も継続しており、CORSIA第一段階での需要顕在化と並行して買い手側の精査も強まる構図にある。
本件は、CORSIA第一段階の遵守期限を2028年に控えた供給側の地位確立競争が、6条準拠というインフラ整備と一体で進行する段階に入ったことを示す事例である。
エコネティクスがDRCのLoA取得から商流契約まで一気通貫で構築した「ホスト国認可起点の供給モデル」は、6条運用が制度設計段階から実装段階へ移行した証左であり、CORSIAバリューチェーン全体の成熟を加速させる構造的意義を持つ。
ただし、ポートフォリオがクックストーブ系方法論に偏重している点、ホスト国がアフリカ複数国に集中している点については、品質懐疑と地政学リスクの両面で評価が分かれる余地がある。供給契約の規模拡大と品質健全性の両立は依然として未解決の論点である。
日系商社にとっては、丸紅グループが取引基盤と信用力を武器に CORSIA 流通段階へ参入した構図が先行事例となる。日系商社が CORSIA 市場でどの段階に主導権を確保するかは、上流のホスト国アクセスと方法論選定の質をいかに早期に押さえるかが左右する。
参考:https://www.smartestenergy.com/en_GB/insights/news-and-blogs/econetix-closes-multi-million-dollar-corsia-supply-deal-with-smartestenergy/