調査会社ブルームバーグNEF(Bloomberg NEF)は8月26日、世界のカーボンクレジット供給が2050年までに現在の20~35倍へ拡大する可能性を示す報告書を発表した。2022年以降進む「市場リセット」により、低品質クレジットから高品質・高インパクト型プロジェクトへの移行が加速している。供給シナリオによっては、CO2換算1トンあたりのコストが2030年に60ドル(約8,800円)、2050年に104ドル(約15,300円)に達する見通しだ。
BNEFの基本シナリオ「ハイクオリティ」では、理論上の供給量は2024年の2億4,300万トンから2030年に26億トン、2050年には48億トンに増加すると推計される。これは市場リセットを背景に投資家の信頼が回復し、数は限定的ながら高品質な案件を中心に形成される「ブティック市場」の姿を反映する。この場合、直接空気回収(DAC)が最大の勝者となり、2050年の供給全体の21%を占める見込みだ。
一方、代替シナリオ「フルサプライ」では、市場リセットが失敗し、2019~2022年に見られたような低品質クレジットが再び氾濫すると想定する。この場合、供給量は2030年に53億トン、2050年に82億トンへ膨張し、その約3分の2を森林減少回避(REDD+)や再植林が占める。ブラジルやインドネシアといった森林資源国に投資が集中する一方、過剰供給により価格は2050年でも69ドル(約10,100円)にとどまり、DACやBECCS(バイオエネルギー炭素回収・貯留)などの技術系CDRは後退する。

さらに、2022年以降27倍に拡大した「店頭取引型炭素除去市場」も存在感を高めている。企業のネットゼロ認証を推進するサイエンス・ベースド・ターゲッツ・イニシアティブ(SBTi)などが、この形態を正規手段とするよう求めており、BNEFは供給が2030年に20億トン、2050年に53億トンに達すると予測した。この場合、BECCSが最大の受益者となり、2050年の平均コストは98ドル(約14,400円)に上昇する。
BNEFは8つのセクターを対象に供給とコストをモデル化しており、これらは2016年以降の市場の約86%を占めてきた。今後の市場構造次第で、どの技術や地域が主導権を握るか、また価格水準がどう変動するかが大きく左右される。
次の焦点は、各国のコンプライアンス市場とボランタリー市場の双方で「高品質クレジット」がどこまで主流化するかであり、企業の中期的なネットゼロ戦略に直結する。
参考:https://about.bnef.com/insights/commodities/long-term-carbon-credit-supply-outlook-2025/