リンデ(Linde)とヴァルメット(Valmet)は、パルプ・製紙業界向けに電化型のCO2回収ソリューションを共同で展開すると発表した。蒸気や熱源を用いずに再生可能エネルギー由来の電力で回収プロセスを駆動する点が特徴で、余剰熱の乏しい工場でも導入できる設計とする。
提携は、リンデの吸着方式回収技術「HISORP CC」と、ヴァルメットが持つパルプ・製紙工程への統合技術および排ガス処理の知見を組み合わせるものである。既存設備への柔軟な統合を可能とし、電化需要の高まる製紙工場での効率的なCO2分離を狙う。
リンデのトビアス・ケラー(Tobias Keller)は、産業脱炭素において電化が重要な役割を担いつつあり、回収技術もこれに対応して進化する必要があると述べた。蒸気を必要とせず、顧客が再生可能エネルギー電力を活用できる方式である点を強調している。
ヴァルメットのラリ・マッティ・クヴァヤ(Lari-Matti Kuvaja)は、製紙工場が回収にとって特有の機会を持つ一方、その実装には工程への深い理解と工場レベルでの確実な統合が不可欠だと指摘した。
リンデの吸着方式回収技術は、セメント分野などで既に商用規模で展開されている。アブダビ国営石油会社(ADNOC)のガス事業や、ドイツのセメックス(Cemex)によるセメント工場では、年間130万トンのCO2を回収・液化する計画が進む。
パルプ・製紙はエネルギー多消費型の産業排出源であり、欧州だけで年間約9,000万トン、米国とカナダで年間約1億4,400万トンのCO2を排出する。
欧州の製紙業界は2005年比で排出を約50%削減したものの、工程の複雑さとエネルギー需要の大きさから、ここからの追加的な脱炭素は難度を増している。
パルプ・製紙の排出は、黒液などの木質バイオマス由来である生物起源CO2が大きな比率を占める。この生物起源CO2を回収・貯留すれば、大気からの正味の除去、すなわちBECCSとして扱いうる。
業界では製紙工程を起点とするBECCS事業も具体化しつつあり、製紙の回収は除去系カーボンクレジットの創出余地を内包すると読み取れる。電化型回収はこの文脈において、回収導入のハードルを工場側で引き下げる手段となる。
本件は、ハードトゥアベート産業における電化型回収の実装事例として位置づけられる。
蒸気を要さず再エネ電力で駆動する方式は、余剰熱に乏しい工場での回収導入を技術的に押し広げる。リンデがセメント分野で蓄積した吸着方式を製紙へ展開する流れは、産業横断での回収技術の標準化を進めるものである。
ただし本件は既存回収技術の用途拡張という性格が強く、技術そのものの新規性は限定的である。提携は回収プロセスの統合と最適化を対象としており、カーボンクレジットの創出は現時点で射程に入っていない。
製紙工程は生物起源CO2の比率が高く、その回収はBECCSとして除去系カーボンクレジットに接続しうる。電化型回収が製紙の生物起源排出をどこまで捕捉できるかが、本件の除去系市場における意味を左右する。