伊スタートアップ、11億円の資金調達 石灰産業の排出削減と海洋隔離を統合

村山 大翔

村山 大翔

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2025年12月、イタリアを拠点とする海洋二酸化炭素除去(mCDR)スタートアップであるライムネット(Limenet)は、独自技術の産業規模拡大に向け、700万ユーロ(約11億3,000万円)の資金調達を完了した。

同社は、石灰生産プロセスで発生するCO2を回収し、海水を用いた海洋アルカリ化(OAE)技術によって隔離するという、産業排出削減と炭素除去を組み合わせたハイブリッドな手法を展開しており、2028年までに年間10万トンの除去を目指す。

今回の投資ラウンドには、CDPベンチャー・キャピタルSGR(CDP Venture Capital SGR)が運用するグリーン・トランジション・ファンドおよびアクセラレーター・ファンドに加え、世界的な石灰生産大手であるファッサ・ボルトロ(Fassa Bortolo)が参画した。

ライムネットの中核技術は、特許取得済みの海洋アルカリ化(OAE)プロセスにある。セメント製造などに使用される前の石灰石からCO2を分離・回収し、それを重炭酸カルシウム水溶液へと変換して海水中に貯留する。このプロセスにより、CO2は1万年以上にわたり安定して隔離されるため、カーボンクレジット市場においても質の高い「永続的な除去」として評価される。また、この水溶液は海水の自然な酸性度と同レベルに調整されており、気候変動による海洋酸性化の抑制にも寄与するというコベネフィットを持つ。

現在、同社はシチリア島のオーガスタ湾にて実証プラントを稼働させている。近隣のバイオガスプラントから回収したCO2と海水を反応させるこの施設は、すでに実稼働段階にあり、今回の調達資金によってその規模を急速に拡大させる計画だ。

ライムネットは声明の中で「我々の技術は、削減が困難なセメント・石灰セクターの排出を抑えるだけでなく、海洋ベースのアプローチを通じて大気中のCO2を積極的に除去するよう設計されている」と強調した。

今回のニュースは、単なるスタートアップの資金調達にとどまらず、CDR市場における「産業融合」の進展を示唆する重要な事例だ。

従来、DAC(直接空気回収)などはエネルギーコストが課題となっていたが、ライムネットの手法は、既存の石灰産業のプロセスにCDRを組み込むことで、原料調達と炭素回収のコスト効率を高めている。これは、日本においてもセメント産業や製鉄業がCDRプレイヤーへと転身できる可能性を示している。

OAEは理論上のポテンシャルは高いものの、生態系への影響評価が課題とされてきた。シチリアでの実証からスケールアップへの投資が決まったことは、環境モニタリングの手法において一定の目処が立った、あるいは投資家が許容できるリスクレベルになったことを意味し、mCDR全体の信頼性向上に寄与すると考えられる。

日本は四方を海に囲まれ、かつセメント産業も盛んだ。つまり、ライムネットのような「製造業×海洋CDR」のモデルは、日本の地理的・産業的特性と極めて親和性が高く、商社や重工業界が注目すべき提携・投資モデルと言えるだろう。

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