自然由来の気候変動対策を手掛ける国際的な開発事業者であるランドライフ(Land Life)と、スペインのエネルギー大手イベルドローラ・グループ(Iberdrola Group)傘下のカーボン・トゥ・ネイチャー・オーストラリア(Carbon2Nature Australia、以下C2N)は12月5日、南オーストラリア州で大規模な植林プロジェクトを開始した。
両社にとって初となるオーストラリアカーボンクレジット(ACCU)制度下での共同事業であり、合計約11万4,000トンの高品質な炭素除去(CDR)クレジット創出と、同国で発足予定の「ネイチャーリペア市場」を見据えた生物多様性の回復を目指す。
ACCU制度への国際投資が加速
本プロジェクトは、南オーストラリア州エア半島にあるタリア・ステーションの688ヘクタールの土地を対象に行われる。この地はかつて原生林の95%が失われた地域であり、絶滅が危惧される「シダレモクマオウ(Drooping Sheoak)」の森林生態系を再生することが主眼となる。
この取り組みは、オーストラリア連邦政府の排出削減基金(ERF)に基づき、高品質なACCUを創出することを目的としている。両社は、カーボンクレジット発行期間中に約11万4,000ACCU(CO2換算で約11万4,000トン相当)の創出を見込んでいる。さらに、プロジェクトの期間設定を100年間とすることで、永続的な炭素固定を実現する計画だ。
オーストラリア政府が2035年の新たな排出削減目標を掲げ、ACCU制度や生物多様性クレジットを扱う「ネイチャーリペア市場」の整備を進める中、国際的な開発事業者が同国を高品質なCDRの拠点として注目し始めている。
生物多様性と先住民の権利を統合
本プロジェクトの特筆すべき点は、単なる炭素除去にとどまらず、生物多様性の回復を定量化している点にある。
C2Nのゼネラルマネージャー、トレイシー・ラッセル氏は、「厳格なデューデリジェンスを実施した」とした上で、次のように述べた。 「高品質なACCUの創出に加え、『アカウンティング・フォー・ネイチャー』の枠組みを用いて生物多様性のベースラインを確立している。これにより、生態学的影響を測定・報告し、オーストラリアの新しいネイチャーリペア市場での機会に備えることが可能になる」
また、文化的意義も重視されており、地元のパートナー企業であるカッシーニア・エンバイロメンタル(Cassinia Environmental)と共に、先住民族であるウィラング(Wirangu)およびナウオ(Nauo)の人々と連携。ファイアスティックス・アライアンス(Firesticks Alliance)の支援を受けた伝統的な野焼き手法を取り入れるなど、先住民の優先事項を設計に反映させている。
「永続的な保護」へのコミットメント
ランドライフのアジア太平洋地域ディレクター、ティム・フェラーロ氏は、本件を「本物の、持続的な修復」のモデルであるとし、次のように指摘した。 「これは短期的な修正や、形式的なカーボンプロジェクトではない。伝統的所有者を中心に据えた、実質的かつ永続的な修復を実現するものだ」
対象となる土地は、州政府との間で「永久遺産協定(Heritage Agreement)」を締結し、法的に永続的な保護が保証される予定である。1850年代の植民地化以降、先住民が初めて土地へのアクセスを回復するという側面も含め、環境・社会の両面で極めて質の高いプロジェクトとして設計されている。
今後の展望
今回の提携は、国際資本と現地の専門知識を組み合わせることで、気候変動対策とネイチャーポジティブ(自然再興)を同時に追求するモデルケースとなる。オーストラリアにおける「ネイチャーリペア市場」の本格稼働に向け、炭素クレジットと生物多様性価値の「重ね合わせ(スタッキング)」が、今後のCDR市場の主流となる可能性を示唆している。
参考:https://landlifecompany.com/updates/global-partnership-carbon-project-south-australia

