ケニア政府は2026年2月17日、国内で生成されるカーボンクレジットを一元管理する「ケニア国家炭素レジストリ(KNCR)」を正式に稼働させた。
国家環境管理庁(NEMA)が運用するこのデジタルプラットフォームは、カーボンクレジットの追跡、検証、および発行承認を担う中央台帳として機能する。世界的にカーボンオフセット市場の透明性への疑義が高まる中、ケニアはパリ協定に基づく厳格な管理体制を敷くことで、アフリカにおける高品質なクレジット供給のハブを目指す。
二重計上を防止しパリ協定6条に完全準拠
今回稼働したKNCRは、カーボンクレジットの「二重計上」を防止するための技術的基盤となる。これはパリ協定第6条が定める「相当の調整」を確実に行うためのもので、ケニア国内で削減された排出量が他国の目標達成と二重にカウントされるリスクを排除する。
開発者はオンラインプラットフォームを通じてプロジェクトのコンセプトノートを提出し、指定国家当局(DNA)との承認プロセスをデジタル上で完結させることが可能となった。すでに80件以上のプロジェクト案が提出されており、規制された透明性の高い環境を求める投資家の関心の高さが伺える。
利益の最大40%を地域還元、独自の法的枠組み
ケニアの新制度で特筆すべきは、カーボンクレジット創出による収益の配分ルールだ。森林保全などの土地ベースのプロジェクトには年間利益の40%を、再生可能エネルギーなどの非土地ベースのプロジェクトには25%を、それぞれ現地の地域社会へ還元することが義務付けられた。
これは、過去に批判の対象となった「利益の不透明な分配」を法的に解消する試みである。ベラ(Verra)やゴールドスタンダード(Gold Standard)といった国際的な認証基準を利用する場合でも、すべてのプロジェクト文書と検証報告書をKNCRへアップロードすることが必須となり、国の監督権限が強化された。
欧州・英国による強力な財政・技術支援
本レジストリの構築には、国際的な支援が投じられている。欧州連合(EU)の「アフリカ・データガバナンス・イニシアチブ」やドイツ国際協力公社(GIZ)が開発を支援したほか、ドイツ政府はケニアのカーボン市場整備に向けて、追加で240万ユーロ(約3億8,400万円)の拠出を表明した。
また、英国高等弁務官事務所は、稼働後2年間のホスティングおよび技術サポートを提供することを認めている。外貨獲得の手段としてカーボンクレジットを重視するケニアにとって、主要ドナーとの連携は、国際市場における「ケニア産クレジット」の信頼性を担保する強力な裏付けとなる。
今後の展望と市場への影響
ケニアのデボラ・ムロンゴ環境・気候変動・森林大臣は、発足式典で「このレジストリは、ケニアが透明性と誠実さを持って国際カーボン市場に参加する準備が整ったという明確なシグナルである」と強調した。同国は広大な森林や草原、豊富な地熱資源を有しており、レジストリの稼働により、これら自然資本を背景とした炭素除去(CDR)プロジェクトへの資金流入が加速すると予測される。
ケニアのレジストリ稼働は、ボランタリーカーボンクレジット市場(VCM)が「国の管理下にある市場」へと変貌しつつある象徴的な動きである。日本企業にとって、J-クレジットや二国間クレジット制度(JCM)以外の選択肢として、ケニア産の高インテグリティなクレジットは魅力的な調達先となり得る。特に利益還元ルールが明確化されたことで、サステナブル投資の観点からも「リスクの低いプロジェクト」の選別が容易になるだろう。
