米国環境保護局(EPA)は、カンザス州初となる二酸化炭素(CO2)の地中貯留専用井戸「クラスVI(Class VI)」の建設および運営に関する許可案を公表した。
このプロジェクトは、バイオ燃料生産大手ピュアフィールド・イングリーディエンツ(PureField Ingredients, LLC)の関連会社であるピュアフィールド・カーボン・キャプチャー(PureField Carbon Capture, LLC)が主導するものである。同社は、エタノール製造の過程で発生する純度の高いCO2を回収し、地下深くの岩層へ恒久的に封じ込めることで、実質的な「炭素除去(CDR)」を実現することを目指している。
高まる経済価値、45Q税額控除と低炭素燃料市場へのアクセス
本プロジェクトが戦略的に重要視されている理由は、CO2を地下に埋めることで発生する膨大な経済的メリットにある。
まず、連邦政府による補助金として、米国のインフレ抑制法(IRA)の下、地中貯留を行う事業者は「45Q税額控除」を受けることができる。地中に恒久貯留する場合、CO2 1トンあたり85ドル(約12,800円)の控除が適用される。

また、CO2を回収・貯留して作られたエタノールは、炭素強度(CI)が低いと見なされ、カリフォルニア州の低炭素燃料基準(LCFS)のような、クリーンな燃料を高く買い取るプレミアム市場での販売が可能となる。
エタノール工場は、発酵プロセスから高濃度のCO2が排出されるため、他の工業施設に比べて安価に炭素回収を行える点が大きな強みとなっている。
二重の安全策と地下1,000メートルへの「封じ込め」
今回の許可案では、CO2が地上の環境や飲み水(地下水)に影響を与えないよう、極めて厳格な地質学的基準が課されている。
- 貯留場所(圧入ゾーン)
地下約1,050〜1,100メートル(3,448〜3,606フィート)に位置する「アーバックル層(Arbuckle Group)」と呼ばれる多孔質の岩層にCO2を注入する。 - 蓋の役割(遮蔽層)
注入したCO2が上昇してこないよう、その上部には「アッパー・アーバックル層」や「ヒーブナー頁岩(Heebner Shale)」といった、水やガスを通しにくい強固な岩盤層が「蓋(コンファイニング・ゾーン)」として機能することをEPAは確認している。 - 継続的な監視義務
事業者は、井戸の力学的完全性を定期的にテストし、周囲の地下水の水質やCO2の広がりを数十年間にわたって監視し続けることが義務付けられている。
今後の手続きと展望
この許可案は現在「ドラフト(草案)」の段階であり、今後パブリックコメントを経て最終的な署名が行われる予定である。
許可が正式に発効した後、井戸の建設が開始される。実際にCO2を注入し始める前には、装置が正常に作動するか、漏れがないかを確認する最終的な承認をEPAから得る必要がある。現在、カンザス州はEPAからこの許可権限を譲り受ける手続きを進めており、将来的には州政府が直接プロジェクトを管理する体制へ移行する見込みである。
今回の承認は、米国中西部で加速する「農業とクリーンテクノロジーの融合」を象徴する動きであり、同様のプロジェクトが全米でさらに拡大することが予想される。
このニュースは、単なる「ゴミ(CO2)の埋立地」の話ではなく、バイオ燃料を「カーボンクレジットと同等の価値を持つ資産」に変えるための重要なインフラ整備と言える。
日本ではCCS(炭素回収・貯留)の適地確保が課題とされているが、米国のように既存の巨大産業(エタノール)と地質条件を組み合わせ、法制度(45Q)で収益を担保するモデルは、今後の日本の脱炭素戦略にとっても極めて示唆に富むものである。
参考:https://www.regulations.gov/document/EPA-R07-OW-2025-3852-0001


