科学的厳密性でバイオ炭CDRを加速 アイソメトリックがパシフィック・バイオチャーに初のカーボンクレジット発行

村山 大翔

村山 大翔

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炭素除去(CDR)専門の認証・登記機関である英国のアイソメトリック(Isometric)は12月19日、バイオ炭製造大手のパシフィック・バイオチャー(Pacific Biochar)に対し、同社初となる認証済み炭素除去クレジットを発行した。

今回発行された3,042トンのクレジットは、米カリフォルニア州スコシアのハンボルト製材所(Humboldt Sawmill)プロジェクトから創出されたものである。アイソメトリックの「バイオ炭製造・貯留プロトコル」に基づき、科学的根拠を重視した厳格な検証プロセスを経て、高品質なカーボンクレジットとして市場に供給される。

パシフィック・バイオ炭は、既存および新設のバイオエネルギー施設と提携し、インフラを改修・最適化することでバイオ炭を製造している。製造されたバイオ炭は主に生産拠点近くの農地に散布され、土壌の保水力向上や作物収穫量の増加、肥料効率の改善に寄与する。今回のクレジットは、持続可能な製材残渣を原料としており、カリフォルニア州および米連邦政府の森林管理・木材収穫規制を遵守していることが確認された。

本件は、アイソメトリックの「バイオマス原料会計(BFA)モジュール」バージョン1.3(v1.3)が適用された初の事例となる。同モジュールの最新版では、プロトコル下で使用可能なバイオマス原料の対象が大幅に拡大されている。測定・報告・検証(MRV)の詳細は、アイソメトリックの「サーティファイ(Certify)」プラットフォーム上で管理され、マングローブ・システムズ(Mangrove Systems)が開発したデジタルMRVプラットフォームを通じて自動化されたデータ送信が行われた。

パシフィック・バイオ炭のジョサイア・ハント(Josiah Hunt)最高経営責任者(CEO)は「アイソメトリックと共に初のクレジットを発行できることを嬉しく思う。彼らの優れた専門チームと、あらゆる段階で適用される科学的な厳格さは非常に印象的だ」と述べた。本プロジェクトは独立した第三者機関である350ソリューションズ(350Solutions)によって妥当性確認および検証が行われており、各クレジットの背後にあるデータや計算根拠は、アイソメトリック・レジストリ(Isometric Registry)で公開されている。

2025年のカーボンクレジット市場において、バイオ炭による炭素除去は最も支配的な手法として台頭している。市場の需要と関心が高まる中、アイソメトリックによる今回のクレジット発行は、科学的に厳密なバイオ炭によるCO2除去のスケールアップに向けた重要な進展となる。パシフィック・バイオ炭は今後、今回の成功モデルを他施設にも展開し、供給体制を強化する方針だ。

2025年のカーボンクレジット市場は、まさに「質の競争」の時代に突入しています。今回のニュースで特筆すべきは、アイソメトリックが最新のBFAモジュール(v1.3)を適用し、原料の幅を広げつつも「科学的厳密性」を担保した点です。

日本の事業者にとっての注目点は、デジタルMRV(dMRV)の完全な統合だ。

マングローブ・システムズとの連携により、データの透明性と信頼性が劇的に向上しており、これは日本の商社や電力会社が「質の高いクレジット」を調達する際の重要な選別基準となる。バイオ炭は日本国内でもJ-クレジット制度などで馴染みがありますが、国際市場ではより長期の貯留期間(200年以上)と厳格なLCA(ライフサイクルアセスメント)が求められている。

今回の事例は、将来的に日本のバイオ炭プロジェクトが国際的な高価格帯市場へ参入するための、一つのベンチマークになるだろう。

参考:https://isometric.com/writing-articles/first-credits-issued-to-pacific-biochar-under-isometrics-biochar-protocol