炭素回収パイプラインの土地強制収用を禁止 アイオワ州下院が「HF 2104」を可決

村山 大翔

村山 大翔

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アイオワ州下院は1月21日、炭素回収・貯留(CCS)プロジェクトの要となる二酸化炭素(CO2)輸送パイプライン建設において、土地の強制収用(エミネント・ドメイン)を禁止する法案「HF 2104」を賛成64、反対28の圧倒的多数で可決した。

この法案は、パイプライン事業者が土地や通行権を取得する際、土地所有者との完全な合意を義務付けるものであり、バイオエタノール業界の脱炭素化を左右する大規模インフラ整備に急ブレーキがかかる可能性が出てきた。

本法案は、主にCO2輸送を目的としたパイプラインの建設および運営のために、政府の権限で私有地を強制的に取得することを禁じている

アイオワ州では、エタノール製造過程で発生するCO2を回収して地中に貯留する大規模なCCS構想が進行中だが、農地を横断するパイプライン建設に対して地元農家や地域コミュニティから「財産権の侵害」や「安全性の懸念」を理由とした強い反発が続いていた。

法案を推進したスティーブン・ホルト(Steven Holt)州下院議員(共和党)は、「経済発展は非常に重要だが、それが基本的な憲法上の権利に優先することは許されない。二酸化炭素パイプライン事業は、社会の機能に不可欠な公共事業とは言えず、強制収用の権限を行使する公共性はない」と強調した。

一方、サミット・カーボン・ソリューションズ(Summit Carbon Solutions)などの開発業者やエタノール業界は、本法案がインフラ整備を事実上不可能にすると警告している。サミットの広報担当者は、「この法案はパイプラインプロジェクトを実質的に封じ込め、アイオワ州の農業が持続可能な航空燃料(SAF)などの新興市場へアクセスする道を閉ざすものだ」との声明を出した。

舞台はアイオワ州参議院へと移るが、参議院では開発を容認しつつ土地所有者を保護する別の折衷案が検討されている。参議院共和党トップのマイク・クリメッシュ(Mike Klimesh)議員が提出した「SF 2067」では、反対する土地所有者を避けるためにルートを5マイル(約8キロメートル)の範囲で変更することを事業者に認める一方、強制収用を申請する前に誠実なルート変更交渉を尽くした証拠を求める内容となっている。さらに「SF 2069」では、パイプラインを流れる液体CO2に対し、1トンあたり2.50ドル(約375円)の分離税(Severance Tax)を課す案も示されている。

法案が成立すれば、開発業者はすべての土地所有者と個別の交渉を行う必要があり、大規模なパイプライン網の構築には大幅な遅延が避けられない。これにより、炭素除去(CDR)技術の社会実装を目指すインフラ開発の在り方が、全米レベルで問われることになる。

アイオワ州は全米最大のトウモロコシ生産地であり、同州でのCCSインフラの成否は、米国全体のバイオエタノール脱炭素化クレジットの価値に直結する。今回の「土地強制収用禁止」の動きは、国家的な気候変動対策と、地元住民の私有財産権が真っ向から衝突した象徴的な事例だ。

事業者は今後、単なる技術論ではなく、地域社会との利益還元モデルをどう構築するかが問われている。

参考:https://www.legis.iowa.gov/docs/publications/LGI/91/Attachments/HF2104_ADA.pdf