アイオワ州上院、CO2回収パイプラインへの強制収用制限法案を可決

村山 大翔

村山 大翔

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4年越しの住民運動が立法化、土地所有者の権利をめぐる全米波及の可能性も

2025年5月12日、アイオワ州上院は賛成27・反対22の僅差で、CO2回収パイプラインにおける強制収用の適用を制限する法案「House File 639」を可決した。法案は今後、キム・レイノルズ州知事の署名を経て成立する見込みであり、成立すれば民間企業による土地取得の強制力を大きく制限するものとなる。

土地所有者 vs CO2回収インフラ

本法案は、州内で計画されているSummit Carbon SolutionsのCO2輸送パイプラインへの強い反発を背景に成立した。計画では、エタノール施設から排出されるCO2をパイプラインでアイオワ、ミネソタ、ネブラスカ、ダコタを経由し、ノースダコタ州に地下貯留する予定であった。

しかし、数年にわたり土地所有者たちは、財産権の侵害、安全性への懸念、農地への影響などを訴え、繰り返し議会に足を運んできた。こうした草の根の運動が実を結び、最終的に州上院の多数派が動いた。

法案の主な内容

HF 639では、以下のような重要な条項が盛り込まれている。

  • 「公共の利益」に基づかない強制収用の制限
  • 「一般運送業者」の定義の明確化
  • 損害補償責任と保険要件の強化
  • アイオワ公益委員会による許認可プロセスでの市民参加拡大

これらは、CO2パイプライン事業者が土地を取得する際の障壁を高め、住民側により有利な交渉基盤をもたらすものとされる。

議会内での混乱と亀裂、共和党内の分断も浮き彫りに

議会では、共和党内でも意見が割れた。特に本法案のフロアマネージャーであり、かつてSummit社に勤務経験のあるマイク・ブーセロット議員(共和党)が提出した修正案(すべてのインフラに適用を拡大する案)は否決された。さらに、民主党の「CO2パイプラインに限定した強制収用全面禁止案」も却下された。

一部議員は「未成熟で曖昧な文言が多く、将来的にインフラ整備全体を阻害する」と批判し、「ハエを叩くために核爆弾を使ったようなもの」と法案の構造そのものに疑問を呈した。

意義と影響

この法案は、気候変動対応と私有財産権の間に存在する構造的な緊張関係を浮き彫りにした好例といえる。環境インフラ整備を推進する動きと、それに伴う土地利用の「強制性」の是非は、今後全米各州で再び問われるテーマとなるだろう。

州知事が署名すれば、アイオワ州はサウスダコタ州に続いてCO2パイプラインに対する収用権の制限に踏み込んだ州となる。これは、土地所有者主導の立法による気候インフラ政策の方向修正を意味し、同様のパイプライン計画が進む他州にも波及が予想される。

参照:https://iowacapitaldispatch.com/2025/05/13/senate-passes-bill-reforming-eminent-domain-for-carbon-pipelines/