IATA、富裕層向け航空税の導入に反対表明 「CORSIAによる15兆円規模の気候資金が最善策」と主張

村山 大翔

村山 大翔

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国際航空運送協会(IATA)は、富裕層の航空利用者に課税を求める「プレミアム・フライヤーズ連帯連合(Premium Flyers Solidarity Coalition)」の宣言に対し、公式に反対を表明した。IATAは、新たな税の導入は発展途上国の経済や航空ネットワークに悪影響を及ぼすと指摘し、既存の「国際航空のための炭素相殺・削減スキーム(CORSIA)」こそが、気候資金を動員し排出削減を実現する唯一かつ正当な国際的枠組みであると反論した。

航空業界による気候資金への貢献という野心自体は評価できるものの、IATAは、航空旅客、特にプレミアムクラス利用者への新税導入という手法には根本的な欠陥があると批判している。こうした課税は直接的な排出削減にはつながらず、むしろ航空ネットワークを弱体化させ、競争を歪めるリスクがあるという。特に、航空輸送を経済のライフラインとする島嶼国や発展途上国にとって、コネクティビティの低下は社会経済発展を阻害する要因となりかねない。

IATAのウィリー・ウォルシュ事務総長は、「発展途上国が必要としているのは、持続可能な成長を実現するための政府支援に裏打ちされた強力な航空ネットワークだ。必要なのは、接続性を損なう追加課税ではなく、明確で一貫性のある世界的に合意された政策である」と述べた。さらに同氏は、「航空業界は経済の触媒であり、資金源(cash cow)ではない。我々は2050年までのネットゼロ達成にコミットしており、CORSIAを通じて1,000億ドル(約15兆3,000億円)以上の気候資金を拠出する準備がある。機能している既存の仕組みを妨害するのではなく、それを基盤に積み上げるべきだ」と強調した。

記事の核心となるカーボンクレジットおよび炭素除去(CDR)の観点から見ると、今回のIATAの声明は、CORSIAの市場メカニズムとしての優位性を強く再確認するものである。CORSIAは、国際民間航空機関(ICAO)の全193加盟国が採択した、国際航空分野における唯一の市場ベースの対策であり、産業セクター全体のCO2排出を管理する世界で唯一の制度でもある。

CORSIAは、高品質なカーボンクレジットの購入を通じて、気候資金を発展途上国へ直接還流させる堅牢かつ正当な炭素市場を確立している。IATAの試算によれば、2024年から2035年の間に、航空会社は15億から20億トンのCO2を相殺・削減すると見込まれており、これに伴う投資額は1,000億ドル(約15兆3,000億円)を超えると予測されている。

先月開催されたICAO総会において、各国政府はCORSIAが国際航空における唯一の枠組みであることを再確認し、二重課金や気候政策の不整合を招くような、国や地域独自の重複措置の拡散に対して警告を発した。今回提案された連帯税のような重複的な賦課金は、この国際的合意に違反するだけでなく、リソースを分散させ規制上の混乱を招くことで、CORSIAの実効性を損なうリスクがある。

ウォルシュ氏は今後の課題について、「今欠けているのは追加の税金ではない。各国政府がCORSIAクレジットの発行を促進し、持続可能な航空燃料(SAF)の生産を支援する行動だ」と指摘した。また、「これら2つの行動は急務である。第一の行動(クレジット発行)は排出量を削減し、発展途上国への気候資金を増加させる。第二の行動(SAF支援)は、最終的に航空輸送の脱炭素化をもたらすだろう」と述べ、炭素市場の活性化と技術革新への支援を訴えた。

参考:https://www.iata.org/en/pressroom/2025-releases/2025-11-19-01/