航空CO2算定、欧州基準と業界データが統合へ 「信頼あるオフセット」提示に向けEASAとIATAが覚書

村山 大翔

村山 大翔

「航空CO2算定、欧州基準と業界データが統合へ 「信頼あるオフセット」提示に向けEASAとIATAが覚書」のアイキャッチ画像

欧州航空安全機関(EASA)と国際航空運送協会(IATA)は2025年11月20日、航空機の二酸化炭素(CO2)排出量の算定および報告プロセスを統合するための覚書(MoU)を締結した。この合意は、欧州連合(EU)の規制に基づく「飛行排出ラベル(FEL)」と、IATAが保有する運航データプラットフォームを連携させるものであり、乗客が航空券予約時にカーボンオフセット(炭素相殺)や持続可能な航空燃料(SAF)購入を選択する際の「信頼の基盤」となる統一基準の確立を目指す。

データ算定の乱立を防ぐ統一規格

今回の合意により、EUが規制するFELプログラムと、IATAの環境データ管理システム「EcoHub」および排出量計算ツール「CO2 Connect」の整合性が図られる。これまで航空業界では、航空会社や予約サイトによってCO2排出量の算出ロジックが異なり、消費者が提示された数値を比較・信頼しにくいという課題があった。

特に、カーボンクレジットやSAFを活用した「脱炭素フライト」の商品化において、正確な排出量データ(ベースライン)の確立は不可欠である。EASAとIATAの連携は、EU域内およびEUに乗り入れる非EU加盟国の航空会社に対し、コスト効率の良い統一フレームワークを提供し、グローバルな透明性を高める狙いがある。

オフセット市場への波及効果

EUの規則「ReFuelEU Aviation(2023/2405)」に基づき、2024年12月以降、航空会社が乗客に排出量を表示するためには、標準化された方法論とデータプロセスへの準拠が義務付けられている。

重要なのは、この統一基準が単なる情報の開示にとどまらず、カーボンクレジット販売の信頼性を担保する点にある。EASAおよび欧州委員会は、航空会社が乗客に対してSAFやその他の排出オフセットを提供する際、このFELに基づく推定値を使用することを推奨している。正確な測定・報告・検証(MRV)なしには、質の高いカーボンクレジット市場は成立しないため、今回のデータ統合は炭素除去(CDR)を含むオフセット商品の消費者信頼度を底上げする動きとなる。

業界リーダーの発言

EASAのエグゼクティブ・ディレクター、フロリアン・ギレルメ氏は、IATAとの提携が航空会社のプログラム参加を容易にするとし、次のように述べた。 「参加する航空会社が増えれば増えるほど、航空旅客にとっての全体的な情報が向上し、フライト予約時に十分な情報に基づいた選択ができるようになる」

また、IATAのウィリー・ウォルシュ事務総長は、正確なデータが持続可能性への信頼維持に不可欠であると強調し、次のように指摘した。 「正確な排出量データの提供は、情報に基づいた意思決定と、航空輸送の持続可能性に対する信頼を維持するために極めて重要だ。EASAとの協力は、データの効率的かつ調和のとれた交換を可能にし、事務負担を軽減することに重点を置く」

今後の展望と課題

この合意は、IATAの「EcoHub」および「CO2 Connect」をEUのラベル制度に中期的に統合することを目指している。「CO2 Connect」にはすでにケニア航空などが新たに署名しており、参加航空会社は増加傾向にある。

真正なカーボンクレジットやCDRの需要が高まる中、欧州以外のデータ慣行とどこまで調和できるか、またデジタルシステムの導入がスムーズに進むかが、世界的な航空脱炭素化の透明性を左右する試金石となる。

参考:https://www.easa.europa.eu/en/newsroom-and-events/press-releases/easa-and-iata-announce-collaboration-regarding-air-travel