国際的なカーボンクレジットの監視機関であるICVCM(Integrity Council for the Voluntary Carbon Market、)は10月16日、初の常設オフィスをシンガポールに開設した。アジア太平洋地域におけるカーボン市場の信頼性向上と、地域特化型のクレジット手法の策定を目指す。
新拠点は、シンガポール経済開発庁(Singapore Economic Development Board、EDB)および国家気候変動事務局(National Climate Change Secretariat、NCCS)と連携して設立された。ICVCMはこれまで完全リモートで運営されており、物理的オフィスの設置は初となる。
CEOのエイミー・メリル氏は、「アセアン各国政府や国内認証プログラムと協力し、当評議会の『コア・カーボン・プリンシプルズ(CCPs)』を現地の状況に合わせて展開していく」と述べた。CCPsは、環境的整合性と人権尊重を重視した10項目の科学的基準で、炭素クレジットの品質を担保する国際指針となっている。
シンガポール拠点では、石炭火力発電所の早期廃止や泥炭地回復など、アジアの移行期課題に即したクレジット手法の開発・評価を重点的に進める方針だ。これは、同国が英国やケニアと主導する「カーボン市場拡大連合(Coalition to Grow Carbon Markets)」への参画や、ペルー、ガーナ、タイとの二国間協定(パリ協定第6条に基づく協力)とも整合する。
EDBのリム・ウェイレン副総裁は、「ICVCMの拠点設置は、シンガポールがカーボンサービスと取引の地域ハブであることを強化する。特に、移行クレジットや農業分野での高品質プロジェクト促進は、アジア全体の脱炭素経済を後押しする」と歓迎の意を示した。
また、NCCSのベネディクト・チア気候変動局長は、「高品質クレジットの活用は、パリ協定に基づく国別目標(NDC)の達成に資する。ICVCMとの連携を通じて、アジア太平洋での高整合性市場の確立を進める」と述べた。
ICVCMはクレジットの発行自体は行わず、ベラ(Verra)やゴールド・スタンダード(Gold Standard)など主要認証機関と連携し、各プロジェクトの手法をCCPs基準で評価する。現在、CCP認定手法による新規プロジェクトは120件以上進行中で、CCPラベル付きクレジットは平均25%の価格プレミアムを獲得しているという。
シンガポール市場では依然として土地権利や森林伐採リスクに関する規制の不透明さが課題だが、ICVCMは「先住民族の権利を副次的便益ではなく中核原則として位置づける」(メリル氏)と強調し、透明性と包摂性の確保を掲げた。
今回の拠点開設により、ICVCMはアジア太平洋での政策協調を深め、自発的市場と排出量取引制度の融合を見据えた「高整合性クレジット市場」構築を目指す。