ホンダは10月14日、米国オハイオ州コロンバスにあるオハイオ州立大学(OSU)のサイテック・キャンパス内に新たな先端材料科学研究所を設立すると発表した。投資額は260万ドル(約4億1,000万円)で、2025年末までの稼働を予定する。水素燃料電池や炭素回収技術、次世代EV電池リサイクルなど、カーボンニュートラル実現に直結する基幹技術の研究を加速する狙いだ。
このプロジェクトは、ホンダのシリコンバレー拠点であるホンダ・リサーチ・インスティテュートUSA(HRI-US)が主導する。同研究所は量子技術やナノテクノロジーの応用研究も進めており、今回の投資で米国中西部における先端研究体制を一段と拡充する
新研究所は、大学キャンパス内に設置されることで、学術研究と産業応用の橋渡しを目的とする。HRI-USの最高科学責任者クリストファー・ブルックス博士は「モビリティの未来と、それを動かすエネルギーに投資を続ける中で、オハイオは当社にとって最も重要なイノベーション拠点の一つだ」と述べ、州の支援に謝意を示した。
同研究所では、水素燃料電池、炭素回収(Carbon Capture)、EV電池リサイクルに加え、量子素材の研究も行う。特に炭素回収分野では、排出源からのCO2吸収効率を高める新素材の探索や、吸収後の再利用技術の確立が焦点となる。これにより、ホンダの「2040年カーボンニュートラル」ロードマップにおける脱炭素モビリティの実現を後押しする構えだ。
ホンダとオハイオ州立大学の関係は1987年に始まり、現在までに同大学工学部への累計投資額は5,000万ドル(約79億円)を超える。2018年に設立されたイノベーション拠点「99P Labs」もHRI-USの一部として運営されており、学生や研究者がエネルギー、ソフトウェア、バッテリー技術の実証研究を行っている。
ホンダは州内に5拠点・約1万2,000人の従業員を抱え、過去6年間で製造施設への投資額は14億ドル(約2,200億円)を超える。さらに、LGエナジーソリューションと共同で35億ドル(約5,500億円)を投じるEV電池工場の建設も進めており、地域経済と雇用への波及効果が期待される。
HRI-USによる今回の投資は、単なる技術開発を超え、炭素回収技術の商業化に向けた実験基盤としても注目される。炭素除去(CDR)技術の成熟は、企業が排出削減義務を超えて「カーボンクレジット」を創出する道を開くため、ホンダが将来的に自社排出分を相殺し、取引市場での信用力を高める戦略の一環ともみられる。
ホンダは今後、オハイオ州を中心とした研究成果をグローバル生産拠点にも展開し、低炭素モビリティと循環型エネルギーの融合を進める方針である。