世界初の完全脱炭素セメント生産 英国パデスウッド工場が2029年稼働予定

村山 大翔

村山 大翔

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英建材大手ハイデルベルグ・マテリアルズ(Heidelberg Materials)は9月25日、英国政府と資金協定を締結し、北ウェールズのパデスウッド工場で世界初となる「完全脱炭素型セメント生産」を可能にする炭素回収・貯留(CCS)設備の建設を決定した。着工は年内に始まり、2029年の稼働を予定している。

新施設は年間約80万トンのCO2を回収する設計で、同社が6月に稼働開始したノルウェーのブレヴィークCCSに続き、セメント産業として世界で2件目の商業規模プロジェクトとなる。パデスウッドでは、ほぼすべての排出を回収することで「evoZero(エボゼロ)」と呼ばれるネットゼロ・セメントを量産し、欧州市場に供給する計画だ。

英国政府は、同国のCCUSクラスター「ハイネット・ノースウエスト(HyNet)」の一環として本事業を支援。回収されたCO2はリバプール湾の海底に輸送・貯留される。エネルギー安全保障・ネットゼロ省のマイケル・シャンクス副大臣は「この画期的プロジェクトは地域雇用を生み、英国再産業化の原動力となる」と強調した。

今回の決定により、パデスウッドは世界で初めて「フルスケールで完全脱炭素のセメント生産」を実現する工場となる。特に注目されるのは、バイオマス燃料由来のCO2を含めて回収・封じ込める仕組みだ。植物由来の廃棄物燃料が吸収した炭素を永久に固定できれば、工場全体が「カーボンシンク」として機能する可能性がある。

同社のドミニク・フォン・アヒテン取締役会会長は「ブレヴィークでの知見を活かし、英国チームと連携して脱炭素を加速する」と述べた。また、欧州担当のヨン・モリッシュ取締役は「英国の制度設計は産業脱炭素のモデルとなり得る」と評価した。

パデスウッドCCSは建設段階で最大500人の雇用を創出し、稼働後も250人以上の直接雇用を維持する見込みだ。英国政府は今議会で総額94億ポンド(約1兆8,200億円)を投じてCCUSを拡大するとしており、パデスウッドと同時に英エンクリス社の「廃棄物発電+CCS」計画も始動した。両案件を合わせ、年間120万トンのCO2削減効果が見込まれる。

これにより、英国は「代替手段の乏しいセメント・廃棄物分野」での排出削減に踏み出し、産業競争力を維持しつつ気候目標達成を目指す。次の焦点は、HyNet全体のインフラ整備とCO2輸送・貯留体制の確立であり、2030年までの商業化に向けた動向が注目される。

参考:https://www.heidelbergmaterials.com/en/pr-2025-09-25