米バイオ燃料大手のグリーンプレインズ(Green Plains)は12月15日、ネブラスカ州にある同社の3つのエタノール製造施設すべてにおいて、炭素回収・貯留(CCS)システムの稼働を開始したと発表した。回収された生物起源CO2は、トールグラス(Tallgrass)が運営するパイプライン「トレイルブレイザー(Trailblazer)」を通じて輸送され、ワイオミング州南東部のハブで恒久的に地下貯留される。
同社は併せて、米国の「45Z」クリーン燃料生産税額控除に基づく約1,400万ドル(約21億円)の初回支払いを受領したことを明らかにした。
CCS実装による「炭素集約度」低減が収益化へ 今回のCCS完全稼働は、セントラルシティ、ウッドリバー、ヨークの3拠点を対象としたもので、実質的なBECCSサプライチェーンの構築を意味する。特筆すべきは、同社がCCS稼働と連動して、インフレ抑制法(IRA)に基づく「45Z」税額控除の収益化を既に開始している点だ。発表によると、同社は2025年生産分の一部として約1,400万ドル(約21億円)を受け取ったほか、2026年初頭にも残りの生産分に対する追加支払いが予定されている。
45Z制度下では、燃料の炭素集約度(CI)が低いほど税額控除の単価が上昇する仕組みとなっている。グリーンプレインズはCCS稼働前の9月時点でも、約2,650万ドル(約40億円)相当の45Z価値を計上していたが、今回のCCS稼働によりCIスコアが劇的に改善されるため、ガロン当たりのクレジット価値は今後さらに上昇する見通しだ。
業界の反応と戦略的意義 トールグラスのCO2事業開発部門プレジデントであるアリソン・ネルソン氏は、今回の連携について「大規模かつ商業的なCCSが現実のものとなったことを実証するものだ」と強調した。また、グリーンプレインズのクリス・オソウスキー最高経営責任者(CEO)は、「ネブラスカでの成功は、当社の低炭素戦略が正確に実行されている証だ」と述べ、炭素制約が強まる燃料市場において、CCSが成長の中核的なレバーになるとの見解を示した。
エタノール業界においては、CCSによる脱炭素化が製品競争力を左右する重要因子となっている。特に、持続可能な航空燃料(SAF)の原料として低炭素エタノールへの需要が高まる中、今回の「全拠点でのCCS実装」は、規制市場における同社の優位性を確立する動きとなる。
このニュースは、単なる一企業の設備投資ではなく、「米国の気候変動政策(IRA)が実際にマネタイズのフェーズに入った」ことを示す重要なマイルストーンだ。
2025年生産分のクレジットに対し、すでに現金化(支払い受領)が発生している、45Zの実装のスピード感に注目すべきである。CCSはコストセンターではなく、政策次第で明確なプロフィットセンターになり得るという実例です。
日本企業もSAF調達に奔走しているが、エタノールからのSAF製造(ATJ法)において、原料エタノールのCI値は最終的なSAFの環境価値に直結する。CCS付きエタノール(低CIエタノール)の供給安定化は、世界のSAF市場にとっても好材料であり、日本の商社やエネルギー企業にとっても調達戦略上の重要なシグナルとなるだろう。
CCS実装が「絵に描いた餅」ではなく、財務諸表にプラスの影響を与えるフェーズに移行したことを、本件は強く示唆している。

