米テクノロジー大手グーグル(Google)は2025年12月10日、海洋アルカリ化(OAE)技術を開発する米スタートアップ、エブ・カーボン(Ebb Carbon)と、大気中から3,500トンの二酸化炭素(CO2)を除去する事前購入契約(prepurchase agreement)を締結したと発表した。本契約に基づくプレパーチェスカーボンクレジットは、エブ・カーボンがサウジアラビアで展開する海水淡水化施設を活用したプロジェクトから創出される予定であり、既存の産業インフラを統合した新たな炭素除去(CDR)モデルの実用化が加速している。
海水淡水化プラントを「CO2吸収装置」へ変貌
今回の契約の核となるのは、エブ・カーボンが独自に開発した電気化学システムである。同社の技術は、海水淡水化プラントから排出される高濃度の塩水(ブライン)を処理対象とする。このブラインを電気化学的にアルカリ溶液へと変換し、海洋へ放出することで、海水が自然に大気中のCO2を吸収・固定する能力(アルカリ度)を高める仕組みだ。
エブ・カーボンは先月、サウジアラビア水公社(SWA)との提携を発表しており、同国内の淡水化施設にこのOAE技術を導入することで、将来的には年間最大8,500万トンのCDR能力を確保する計画を明らかにしている。グーグルが購入した3,500トン分の除去枠は、このサウジアラビアでのプロジェクト運用から生成されることとなる。
アルファベット傘下「X」との連携で副産物も価値化
本契約の背景には、技術的な親和性に加え、グーグル(アルファベット)とエブ・カーボンの深い人的つながりがある。エブ・カーボンの共同創業者であるベン・ターベル(Ben Tarbell)CEOらは、かつてアルファベット社内で気候変動対策や炭素除去イニシアチブを主導していた経歴を持つ。
さらにエブ・カーボンは、アルファベット傘下の先端技術研究機関である「X(エックス、旧Google X)」とも連携している。OAEプロセスではアルカリ溶液の生成に伴い「酸」が副産物として発生するが、両社はこの酸をコンクリート廃棄物のリサイクル処理に活用する研究を進めている。
Xのプロジェクトリードを務めるアントニオ・パパニア=デイビス氏は、「エブの電気化学的アプローチとXの酸利用技術を組み合わせることで、コストがマイナス(収益を生む)となる炭素隔離が実現する可能性がある」と指摘した。廃棄物の流れ(Waste streams)を収益の流れに変えるこのモデルは、CDRの経済性を劇的に改善するブループリントとして期待されている。
既存インフラ活用がスケーラビリティの鍵
エブ・カーボンによると、世界中の海水淡水化インフラは日々数億トンの海水を処理しており、これらを活用すれば理論上、年間数十億トン規模のCO2除去が可能になるという。
ターベルCEOは声明で、「スケーラブルな海洋炭素除去には、既存の産業インフラの活用が不可欠だ」と述べた上で、淡水化プラントへのシステム統合が展開コストと複雑さを大幅に低減させると強調した。グーグルによる今回の購入は、単なるクレジット調達にとどまらず、こうした「インフラ統合型CDR」の有効性を市場に示す重要な検証となる。
参考:https://www.ebbcarbon.com/news/accelerating-our-path-to-scalable-ocean-carbon-removal-with-google

