世界のカーボンクレジット開発者65社以上で構成されるプロジェクト・デベロッパー・フォーラム(PDフォーラム / Project Developer Forum)は1月21日、主要な認証機関であるゴールドスタンダード(Gold Standard)に対し、パリ協定準拠ルールの遡及的な適用が市場に深刻な混乱を招くとして、方針の再検討を求める書簡を送付した。
2026年以降に発行される全カーボンクレジットに新基準への適合を義務付ける同機関の方針は、既存プロジェクトの経済性を損ない、投資家の信頼を揺るがす恐れがある。
ゴールドスタンダードが10月に発表した新枠組みでは、プロジェクトの登録時期や資金調達時期に関わらず、2026年ヴィンテージ(発行年)以降のすべてのクレジットにパリ協定への準拠を求めている。これにより、既存のプロジェクトであっても、新たな算定方法論への変更や文書の更新、さらには再バリデーション(妥当性確認)の手続きが必要となる。
PDフォーラムは、この方針転換が2020年から2021年にかけて発生した審査の停滞(バックログ)を再発させると警告した。
現在、ゴールドスタンダードにおいてパリ協定に準拠した方法論は2種類しか存在せず、太陽光照明や建物の省エネ、コミュニティ規模のエネルギー事業など、広く普及している多くの手法で移行経路が不明確なままである。
法制度上の懸念として、ホスト国(プロジェクト実施国)との調整も挙げられる。
多くの国はすでにパリ協定第6条に基づく「相応の調整」に向けた承認書を発行しており、排出削減量を国家報告書に組み込んでいる。ルールの遡及的な変更は、これら国家間の計算を複雑にし、気候変動対策の公約達成を妨げる可能性がある。
植林や再植林、稲作の水管理、土壌炭素貯留などの自然由来(NbS)プロジェクトも、2026年から新ルールの対象となる。PDフォーラムの共同副議長であるアイセ・フレイ氏は「新たなプロジェクトに対してルールの透明性を高めることは誠実性の向上につながるが、遡及的な適用は、長期的な炭素金融の基盤である予測可能性を損なう」と指摘した。
これに対し、ゴールドスタンダードは「遡及適用」との指摘を否定している。
同機関は、過去に発行されたクレジットに変更や取り消しは生じないと説明した。同要件は将来のクレジットにのみ適用されるものであり、グリーンウォッシュを防ぎ、各国が掲げる国が決定する貢献(NDC)との整合性を確保するために不可欠であると述べた。
ゴールドスタンダードは、パリ協定準拠を大規模に実施する初の主要な独立基準として、市場の長期的信頼を強化する指導的な役割を果たす意向を示している。しかし、開発者側は明確な経過措置がなければ、高い透明性を持つプロジェクトが存続の危機に瀕し、気候変動対策が遅延することを危惧している。
今回の対立は、カーボンクレジット市場が牡丹他リーカーボンクレジット市場(VCM)」から「パリ協定下の公的枠組み」へと移行する過程で生じる典型的な産みの苦しみと言える。
ゴールドスタンダードは信頼性(Integrity)を重視し、2026年を明確なデッドラインとして設定したが、これは実務を担うデベロッパーにとって、投資回収スキームを根底から覆しかねない高いハードルだ。
日本企業にとっても、今後調達するクレジットが「2026年以降のヴィンテージ」である場合、そのプロジェクトが新ルールに対応できているか、あるいは審査の停滞に巻き込まれていないかを精査する必要が出てくる。
高価格・高品質なクレジットとして知られるゴールドスタンダードだが、今回のルール変更に伴う供給リスクには注意が必要だ。
参考:https://pd-forum.net/project-developers-urge-gold-standard-to-halt-retroactive-climate-rules/


