2025年世界排出量が過去最高を更新 1.5度目標の「炭素予算」残り4年

村山 大翔

村山 大翔

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2026年2月26日、AIと衛星データを活用する国際監視団体「クライメート・トレース(Climate TRACE)」は、2025年の世界温室効果ガス(GHG)排出量が前年比0.50%増の606億3,000万トン(CO2換算)に達し、統計史上最高を更新したと発表した。

パリ協定が掲げる「1.5度目標」達成のための残余カーボン予算は、現在の排出ペースでは残り約4年分で底を突く計算となる。排出削減の停滞は、大気中からCO2を直接回収する炭素除去(CDR)技術や、高品質なカーボンクレジット市場への依存度を必然的に高める事態を招いている。

排出増の主因は、化石燃料の採掘・精製部門(前年比1.56%増)および運輸、製造、建設セクターの活動拡大である。

特に石油・ガス生産サブセクターは4.1%増と突出した伸びを記録した。国別ではロシアの排出量が世界で最も増加した一方、インドはモンスーンの影響と再生可能エネルギーの普及により、2020年以来初めて電力部門の排出量が減少に転じた。

排出量トップ2の動向は明暗が分かれている。

中国は電力部門の排出が2015年以来初めて0.39%減少したが、道路運輸部門の増加がこれを打ち消し、国全体では0.28%の微増となった。一方で米国は、年初の寒波による暖房需要や電力部門での石炭利用回帰により1.9%増と反発しており、クリーンエネルギーへの移行速度が依然として不十分であることを露呈した。

国連環境計画(UNEP)の最新報告によれば、現在の各国の政策延長線上では、今世紀末までに2.3度から2.5度の気温上昇が予測されている。大気中のCO2濃度は425.7ppmに達し、産業革命前を52%上回る水準だ。1.5度目標を維持するための「カーボン予算」は実質的に枯渇状態にあり、今後は「排出しない」努力に加え、既に排出されたガスを回収するネガティブエミッション技術への投資が不可欠となる。

この状況下で、カーボンクレジットの役割は「排出回避」から、より高価値で信頼性の高い炭素除去(CDR)由来へとシフトしている。これまでの森林保全型カーボンクレジットに加え、大気直接回収(DAC)やバイオ炭など、物理的に炭素を固定・除去する手法への資金流入が加速する見通しである。

今回のデータは、再生可能エネルギーの導入が進む一方で、新興国の経済成長と主要国のエネルギー需要がそれを上回る速度で推移している現実を示している。

北欧諸国では電気自動車(EV)の普及により運輸部門の排出が9%減少するなど、特定の成功例は見られるものの、グローバル規模でのデカップリング(経済成長と排出量の切り離し)には至っていない。2026年3月に発表予定の1月期データを含め、今後、企業にはサプライチェーン全体での厳格なカーボンフットプリント管理と、残余排出を埋めるための戦略的なカーボンクレジット調達が求められる。

排出予算の枯渇は、カーボンクレジット価格の長期的な高騰を意味する。

日本の中小企業にとっても、省エネによる削減は「前提条件」となり、今後はCDR技術を持つスタートアップとの連携や、J-クレジット制度などを活用したカーボンクレジットの早期確保が、国際競争力を左右する経営資源となるだろう。

参考:https://climatetrace.org/news/climate-trace-data-show-global-greenhouse-gas-emissions-hit-a-new-record-high-in-2025