英ロンドン証券取引所グループ(LSEG)傘下の世界的インデックスプロバイダー、FTSEラッセル(FTSE Russell)は2025年12月4日、世界の機関投資家(アセットオーナー)を対象とした第8回年次サステナブル投資調査の結果を発表した。回答者の85%が気候変動リスクを「主要な懸念事項」として挙げ、前年の76%から大幅に上昇した。特筆すべきは、サステナブル投資を行う動機として「受託者責任」を挙げる割合が急増しており、気候変動対策が単なる社会貢献ではなく、資産を守るための財務的義務として定着しつつある現状が浮き彫りとなった。
世界の投資マネーが「質」を重視し始めたことは、信頼性の高いカーボンクレジットや炭素除去(CDR)プロジェクトにとって追い風となる一方、依然として根強い「グリーンウォッシュ」への警戒感が障壁となっている。
「受託者責任」としての気候対応が急増
本調査は世界24カ国、415のアセットオーナー(年金基金、保険会社、政府系ファンドなど)を対象に実施された。サステナブル投資(SI)をポートフォリオに導入している割合は73%で、前年から横ばいとなり定着フェーズに入ったことを示している。
最大の注目点は投資動機の変化だ。サステナブル投資を行う理由として「財務パフォーマンス(56%)」と「リスク管理(54%)」が上位を占める中、「受託者責任(Fiduciary Duty)」を挙げた回答が昨年の14%から42%へと約3倍に急増した。対照的に「社会貢献」を動機とする回答は37%に留まった。
FTSEラッセルのサステナブル部門グローバルヘッド、ステファニー・マイヤー(Stephanie Maier)氏は、「地政学的な逆風の中でも、アセットオーナーのコミットメントは揺らいでいない。気候およびサステナビリティ・リスクへの懸念は強まっており、サステナブル投資は受託者責任の中核要素になりつつある」と指摘した。
これは、気候変動リスクへの対応を怠ることが、将来的な資産価値毀損に直結するという認識が主流化したことを意味する。CDRを含む脱炭素技術への投資は、もはや「善行」ではなく「財務戦略」の一部となっている。
ダイベストメントから「エンゲージメント」へ
投資手法にも変化が見られる。特定のテーマに投資する「テーマ型投資(60%)」や、環境・社会・ガバナンス要素を考慮する「ESGインテグレーション(61%)」が引き続き人気だが、炭素集約型資産をポートフォリオから外す「ダイベストメント(投資撤退)」よりも、企業との対話を通じて脱炭素化を促す「エンゲージメント」が支持を集めている。
これは、高排出産業の低炭素化(トランジション)を資金面で支える動きであり、企業が排出削減を進める過程で活用するカーボンクレジットや、バリューチェーン内の炭素除去技術(CCS/CDR)導入に対する理解が深まる素地となり得る。
クレジット活用を阻む「グリーンウォッシュ」の壁
一方で、新たなサステナブル投資戦略の導入を検討中(23%)とする投資家にとって、最大の障壁となっているのが「グリーンウォッシュ」への懸念と、ESGデータの可用性・正確性の欠如だ。
調査では以下の課題が浮き彫りになった。
- 規制と分類の不整合
回答者の60%が、開示要件やタクソノミー(分類)の違いが規制対応への課題であると回答。 - ポートフォリオの不適合
61%が、規制当局が定めるサステナブル要件や気候要件と、実際のポートフォリオやインデックスを整合させることの難しさを指摘。
カーボンクレジット市場においても、発行されるクレジットの品質(Quality)や測定・報告・検証(MRV)の透明性が問われている現状と合致する。投資家は資金を投じる用意があるものの、その投資先が本当に環境貢献しているかを確認するデータの不備に足踏みしている状況だ。
巨額マネーの呼び込みへ
FTSEラッセルのインデックスは、約18兆1,000億ドル(約2,715兆円)の資産運用のベンチマークとして利用されている。今回、気候リスクへの懸念が85%に達したことは、この巨額マネーが「気候リスクを低減する確かなソリューション」を求めていることを示唆する。
高品位なCDR技術や、科学的根拠に基づくカーボンクレジットが、投資家の求める「リスク調整後リターンの改善」と「説明責任(アカウンタビリティ)」を満たすことができれば、今後さらなる資金流入が期待できる。市場の透明性向上と国際的な基準統一が、その鍵を握ることになるだろう。
参考:https://www.lseg.com/en/ftse-russell/sustainable-investing-solutions/global-asset-owner-survey

