ストライプ(Stripe)、アルファベット(Alphabet)、メタ(Meta)などが主導する炭素除去(CDR)の市場形成連合「フロンティア(Frontier)」は2025年12月18日、カナダの気候テック企業であるニューライフ・グリーンテック(NULIFE GreenTech)と、4420万ドル(約66億3000万円)の炭素除去購入契約を締結したと発表した。
この契約により、フロンティアによる2025年のCDR購入総額は2億6100万ドル(約391億5000万円)に達し、同年の契約除去量は68万8300トンを記録した。高信頼なCDRクレジットの供給確保に向け、テック大手が主導する先行投資が加速している。
産業廃棄物を「バイオ原油」へ変換し地下貯留
今回の合意に基づき、ニューライフは2026年から2030年にかけ、合計12万2000トンの二酸化炭素(CO2)除去を提供する。1トンあたりの平均価格は362ドル(約5万4300円)となる。
ニューライフが展開するのは、バイオマス炭素除去・貯留(BiCRS)と呼ばれる技術領域だ。同社は、農業残渣や食品加工で生じる廃油などの産業廃棄物を原料とする。特許取得済みの「水熱液化(HTL)」プロセスを用いて高温高圧下で処理し、炭素を豊富に含む「バイオ原油」を生成。これを深い岩塩空洞(ソルトキャバーン)に注入することで、CO2を恒久的に隔離する。
テック・小売り大手による共同購入
本契約には、ストライプ、アルファベットに加え、ショッピファイ(Shopify)、オートデスク(Autodesk)、H&Mグループ(H&M Group)、ワークデイ(Workday)、ウォーターシェッド(Watershed)といった多様な業種の企業が買い手として参加した。
フロンティアは2030年までに総額10億ドル(約1500億円)以上のCDR購入をコミットしており、今回の契約もその一環となる。
ニューライフの共同創業者であるジェリー・クリスチャン(Jerry Kristian)氏は、「このオフテイク(長期引取)契約は、当社のBiCRSプラットフォームを拡大するために必要な長期的な需要シグナルを与えるものだ」と述べ、農業や産業界が抱える有機廃棄物の処理課題を解決しながら、炭素除去を実現できる点を強調した。
第三者検証と拡張性
除去された炭素の計測・報告・検証(MRV)は、CDR特化型の登録簿(レジストリ)であるアイソメトリック(Isometric)の基準に基づいて行われる。厳格な科学的検証を経ることで、クレジットの信頼性を担保する狙いだ。
また、ニューライフの技術はモジュール式であり、大規模な集中型施設だけでなく、廃棄物が発生する各拠点への分散型展開が可能である点が評価された。これにより、需要過多となっているCDR市場に対し、短期的に供給量を積み増せる可能性が示された。
「廃棄物処理」と「炭素除去」のハイブリッドモデルが示す可能性
今回のニュースで特筆すべきは、単なるCO2回収ではなく、処理困難な「有機廃棄物(廃油や汚泥など)」の処分という実益を兼ねている点。
経済性の多重化
DAC(直接空気回収)が「空気」という無価値なものを相手にするのに対し、BiCRSは「処理コストのかかるゴミ」を入力とします。廃棄物処理料収入とカーボンクレジット収入の「ダブルインカム」が見込めるため、1トンあたり362ドルという価格は、初期のCDRとしては比較的競争力があり、今後のコストダウン余地も大きいと推測されます。
日本市場への示唆
日本は食品廃棄物や下水汚泥の処理に多大なコストをかけています。国土が狭く大規模な再エネ敷設が難しい日本において、既存の廃棄物処理インフラを「炭素除去プラント」へと転換させるこの技術モデルは、極めて親和性が高いと言えます。
市場の成熟
2025年のフロンティアの購入額が約390億円を超えたことは、CDRが「実験」から「産業」へと移行したことを意味します。日本企業も「実証実験」のフェーズを終え、長期オフテイク契約による「市場の買い手」としてのポジション確立を急ぐべき時期に来ています。
参考:https://nulifegreentech.com/news/frontier-offtake-agreement/


